最近、青春時代に流行った歌謡曲やフォークソングを口ずさむことが多くなりました。忘れかけた歌詞を辿るようにして歌うと、当時の情景や風景が脳裏に浮かんできます。ところが、実際に記憶の中に在る場所を訪れてみると、昔あった建物はすでに跡形も無く、高速道路のような広い道路が走り、新しい橋が架かり、大きな商業施設ができていたりするもの……。

昔の記憶を手繰り寄せるモノを失い、懐かしさに浸ることもできず愕然とすることもしばしばです。自分の記憶の中にある風景は、あたかも「まぼろしの世界」であったかのような気持ちになります。

もし、青春時代に大声で歌った、あの歌詞に描かれている風景や情景に出会えるものなら、訪ねてみたくなるのはサライ世代共通の思いではないでしょうか?
 
もしもそうであるなら、この記事が皆様の「思い出の情景や風景」を呼び起こし、重ね合わせる一助になりましたら幸いです。

今回、動画の中でご紹介しておりますのは、滋賀県湖北地方の町「長浜」の風景です。戦国時代、羽柴秀吉によって開かれたこの町には、どこか1970年代にヒットした小柳ルミ子さんのデビュー曲『わたしの城下町』で描かれる情景と重なるものがあります。きっと、懐かしさに浸っていただけるのではないでしょうか?

城下町と宿場町の雰囲気を併せ持つ町には、歌謡曲『わたしの城下町』がよく似合う

長浜市街地「ながはま御坊表参道」の風景、奥に見えるのが大通寺の山門
ながはま御坊表参道の風景、奥に見えるのが大通寺の山門

現在「長浜」と呼ばれているこの地は、1336年に京極導誉(きょうごくどうよ)によって城が築かれ、室町期には京極氏の臣、今浜氏によって守られていたという説があります。そうしたことから、「今浜」と呼ばれていたのでしょう。その後、浅井家が勢力を拡大し北近江を治めるようになると、今浜城も浅井家の支配下となりました。

これ以後の歴史は、戦国歴史ファンならずともよく知るストーリーの幕が上がります。

北国街道の風景
総年寄の一人であった安藤家の屋敷前から眺める北国街道の風景

美濃国の斎藤氏攻略に苦戦する織田信長は、近江の権力者となった浅井長政との同盟を画策します。信長は長政と同盟を結ぶため、妹のお市の方を嫁がせると共に、「朝倉家への不戦の誓い」を条件として同盟を成立させました。

ところが、元亀元年(1570)、信長は長政と交わした「朝倉への不戦の誓い」を破り、徳川家康と共に琵琶湖西岸から、越前国の朝倉の城を攻撃。長政は義景との同盟関係を重視して、織田・徳川連合軍を背後から急襲しました。殿(しんがり)を務めた木下秀吉、明智光秀らの働きにより、信長は命からがら近江国を脱出する「金ヶ崎の退き口」へと歴史ドラマの名場面は続くのでありますが……。

小谷城跡に立つ長政自刃の碑
小谷城跡に立つ長政自刃の碑

長くなりますので、この辺りで「戦国歴史講談」は終わりにして、お話を「長浜」の起源に戻します。

天正元年(1573)小谷城を居城とする浅井長政は、織田信長によって攻め亡ぼされ、浅井家の旧領は羽柴秀吉に与えられました。秀吉は不便な小谷の山城を捨てて、今浜に城を築き「信長」の一字をとり「長浜」と名付けたというのが地名の起こりとされています。秀吉が長浜城を居城としていたのは約7年程であったとされていますが、その間、長浜城の築城とともに町割りを進め、小谷城下など近隣から商人を呼び寄せ、楽市楽座を開き城下を栄えさせたことは有名な話ですね。しかし、豊臣氏が滅亡後、彦根藩領となって以降は、次第に要所としての存在意義が薄れ、江戸時代前期に廃城になりました。遺構は、彦根城築城の際や大通寺に使用されたとの記録もあります。

真宗大谷派長浜別院 大通寺の山門
真宗大谷派長浜別院 大通寺の山門

このように長浜城の歴史は短いのですが、長浜を繁栄へと導いた秀吉の人気は今も根強いものがあります。現在の長浜城は、昭和58年(1983)に安土桃山時代の城郭を模して「昭和新城」として復興されたもの。内部は歴史博物館として公開されています。

長浜城の外観
現在の長浜城、昭和58年(1983)に「昭和新城」として復興された

『わたしの城下町』の歌詞を彷彿とさせるのは、長浜駅前通り南側の朝日町。白壁商家や町家が並び落ち着いた雰囲気が味わえます。北側の元浜町には、幕末から明治期にかけ建てられたと思しきレトロ感あふれる建築物が並びます。旧北国街道沿いには、宿場町の雰囲気を漂わせる「旅籠」風の宿も。早朝『わたしの城下町』を口遊みながら、この町を散策をすれば、きっとあなたの中にある「思い出の情景や風景」に出会えることでしょう。

長浜タワー
昭和ノスタルジックな「長浜タワー」と書かれたビル

アクセス情報

所在地:滋賀県長浜市元浜町周辺
鉄 道:JR北陸本線長浜駅より徒歩約5分
自動車:北陸自動車道 長浜ICより約10分程度

取材・動画・撮影/貝阿彌俊彦(京都メディアライン)
ナレーション/敬太郎
京都メディアライン:https://kyotomedialine.com
Facebook:https://www.facebook.com/kyotomedialine/

 

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