文・写真/東リカ(海外書き人クラブ/アメリカ在住ライター)
世界三大珍味の1つとして名高い「トリュフ」。世界で最も高価な食材の1つで、重さ約1.5kgの巨大トリュフには、33万ドル(約3480万円。2021年2月現在)の値段が付いたこともあるほどだ。
トリュフは、樹木の根に共生する香り高い希少なきのこで、豚や犬がその香りを頼りに土中から探し当てるというユニークな採取法でも知られている。
トリュフと言えば、「黒いダイヤ」と呼ばれるフランス産の黒トリュフ(メラノスポーラム)やそれ以上に高級なイタリア産白トリュフが有名だが、実は、世界中に何千種類ものトリュフがあるそうだ。ただし、食用として価値があるのは、黒トリュフ、白トリュフに加えて、夏場に取れるサマートリュフ、明るい色味のビアンケットトリュフなど10種類程度で、やはり欧州原産のものが多い。
そのほとんどが野生のトリュフだが、気候変動や乱獲の影響から産出高が減り、価格はますます上昇している。
そんな中、近年存在感を増しているのが、北米原産のトリュフ「オレゴントリュフ」だ。名前が示す通り、オレゴン州を中心に北はカナダ、南はカリフォルニアまで、カスケード山脈の西側のダグラスファー(米松の一種)の生えるエリアで収穫されている。
オレゴントリュフには、冬場に取れる「オレゴン白ウインタートリュフ」、5、6月がピークの「オレゴン白スプリングトリュフ」、年間を通して収穫できる「オレゴン黒トリュフ」、「オレゴン茶色トリュフ」の4種類がある。
中でも人気のオレゴン黒トリュフは、トロピカルフルーツの香りがあり、白トリュフは石油系溶剤のアロマ、また、珍しいオレゴン茶色トリュフは、調理したカリフラワーのような香りがするそうだ。
価格は、「黒いダイヤ」メラノスポーラムがレストランの卸売りで、1ポンド(453.6グラム)あたり$600から$1100(約6万3000円から約10万5000円)なのに対して、オレゴン黒トリュフやウィンター白トリュフは$400から$800(約4万2000円から約8万4000円)程度。20年ほど前、オレゴントリュフが初めてパリで業界関係者に紹介された時には、あくまでフランス産黒トリュフの安価な代替品としか考えられていなかった。
しかし、オレゴン州ユージン市で開催される世界最大規模のきのこ祭「Mt. Pisgah Arboretum Mushroom Festival(https://cascademyco.org/mushroom-festival-menu-guide/mount-pisgah-arboretum-mushroom-festival/ )」で20年ほど前から何百人もの一般客を対象に香りのブラインドテストを開催したところ、オレゴン黒トリュフの香りが毎回、最も高価で旬の白トリュフ以上に好かれたという。完熟の最適な状態でオレゴントリュフを口にする人が増えれば、その価値は更に高まると期待されている。実際に、アメリカにフランス産黒トリュフが多く供給された2020年には、初めてオレゴン産にフランス産を上回る価格が付いたそうだ。
また、オレゴン州は、北米のトリュフ生産ビジネスの中心地でもある。州内のウィラメット・ヴァレーは、フランスワインの銘醸地ブルゴーニュやボルドーに似た気候で、ピノ・ノワールワインの名産地となっているが、同様にフランス産黒トリュフが育ちやすい環境でもある。オークやヘーゼルナッツの苗木に菌を感染させて植栽した畑で、メラノスポーラムの生産に成功しており、産業として成長している。
2006年以降、毎年オレゴン・ウィンタートリュフの旬である1月の最終末にユージン市で、2月に北部ウィラメット・ヴァレーでオレゴントリュフ祭「Oregon Truffle Festival(https://oregontrufflefestival.org/ )」が開催される。オレゴントリュフについてよりよく知ってもらうことを目的とした北米最大のトリュフ関連イベントで、セミナーやフィールドツアー、料理教室、試食、トリュフ犬選手権、トリュフ関連商品の市場などを展開。全米からトリュフ農家、ハンター、シェフ、ドッグトレイナー、グルメな一般客など2500人ほどが集まるそうだ。
今年はパンデミックの影響でオンライン開催となってしまったが、機会があればぜひ、この季節にオレゴン州を訪れて、旬のオレゴントリュフを味わってほしい。
オレゴントリュフェスティバルオフィシャルサイト:https://oregontrufflefestival.org/
文・写真/東リカ (海外書き人クラブ/アメリカ在住ライター) 米国オレゴン州ポートランド在住。2014年12月に家族でブラジル・サンパウロから移住。現在はフリーランスとして、日本のメディアへの執筆やマーケティングリサーチを行なっている。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。