新型コロナウイルスの、重症化リスクのひとつとして挙げられているのが慢性腎臓病(CKD)です。CKDは、腎障害や腎機能低下が慢性的に継続するすべての腎臓病のこと。日本全体で患者数は1330万人にのぼり、20歳以上の日本人の8人に1人がかかっていると考えられています。コロナ禍では特に高齢者はより深刻です。健康で長生きをするためには、慢性腎臓病にならないことが重要。予防法や早期発見・早期治療の大切さ、実際にかかってしまったときの食事制限について、東京医科大学病院腎臓内科主任教授の菅野義彦先生に伺いました。
在宅ワークで腎臓の健康を取り戻す
慢性腎臓病(CKD)は、新型コロナウイルス感染症の重症化のリスク因子とされ、新型コロナウイルス感染症の合併症として、血栓症を合併する可能性があるともいわれています。第2回では、ウィズコロナ時代の生活習慣や、腎臓病とのつき合い方を紹介します。
「コロナ禍の大きな生活の変化に、テレワークの増加があります。通勤がなくなり、家に籠りっきりになったことで、運動不足になったり、仕事中の間食が増えたりして体調を崩されたという方がいます。一方で、外で飲む機会が減り、一日3食健康的な食事を摂り、運動をする時間が十分に取れたことで、体重が減り、血圧も下がったという方もいたのではないでしょうか。私の周りの40~60代には、在宅の長時間を利用して筋トレをはじめた人もおり、コロナ禍で健康を取り戻したという声は少なくありません。巣ごもりを上手く利用して、これまでの負の生活習慣を健康的にシフトすることは、腎臓病に限らず、すべての生活習慣病予防になると考えます。不安な状況下ではありますが、ウィズコロナ時代では、ポジティブに生活を変えていくことが、体調を整えるきっかけになり、結果として腎臓を守ることにもつながると思います」
テレワークは、マイペースで仕事ができるというメリットもありますが、集中するあまり休憩を入れるタイミングが難しく、食事抜きで仕事を長時間続けてしまうというデメリットもあります。ここで注意したいのが水分補給です。水は人が活動するうえで不可欠で、一日に必要な摂取量は、食事などをあわせ全体で約2.5リットルといわれ、水分補給量は約1.5リットルと推定されています。加齢によって、体の中の水分量は年々減少していきますので、50代、60代が長時間水分を摂らずに過ごすことは、大きな健康リスクです。特に腎臓は脱水によってダメージを受けやすいといわれています。
「腎臓は脱水に弱いので、仕事中はこまめに水分を摂って、体の中が干からびないように、たっぷり濡らしておくことが重要です。人が活動している限り体内にはゴミがたまり、そのゴミを水と一緒に尿として体外に排出しています。脱水の状態だと、少ない水にいっぱいゴミを詰め込まざるを得ず、腎臓にかなりの負担をかけることになります」
仕事中はデスクに1日の摂取量分の水を入れたペットボトルを置き、定期的に補給するように心がけると、脱水を防ぐことにつながります。
尿の色は腎臓のSOSを知るサイン
「脱水を知る目安が尿の色です。濃い色の尿が出たら、体の中の水分が足りないサイン。風邪のときに尿が濃くなるのも、脱水症状を起こしているからです。腎臓をいたわるのであれば、尿が薄くなるまでどんどん水分補給をしてください」
肌の乾燥も健康には大敵です。テレワーク中は長くエアコンをかけているため、通常のオフィスワーク時よりも乾燥は深刻。コロナ対策にもつながる加湿器などを導入することで、肌に潤いを与えてくれます。
「加湿器は室内をウエットにするだけではなく、風邪の予防にもなります。保湿クリームも乾燥対策として効果があると思います」
もう一つ、腎機能を悪化させる落とし穴として、風邪薬の服用を挙げます。
「市販の風邪薬の中には、多量に服用すると腎臓にダメージを与えるものもあります。風邪薬は症状が出たらすぐに飲んで、短期間で治しましょう。トータルで風邪薬を飲んでいる期間をいかに短くするかが、腎臓への負担を和らげる大事なポイントとなります。特に50~60代は、初期対応を間違えるとより治りが悪くなるので要注意です。たかが風邪と思っても、風邪が原因で大病につながる可能性もあります」
腎臓病に限らず、体は加齢とともに衰えていきます。50代、60代になると、若いころは一晩寝れば自然に治癒していた疾病も、簡単には治らなくなるわけです。
「50代になったら身体の小さな変化も無視をしないということですね」
【次回】中途半端な食事療法では腎機能は守れない!に続きます
お話を伺ったのは……
医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/
取材・文/安藤政弘