文・写真/倉田直子(海外書き人クラブ/オランダ在住ライター)
「オランダの街」と聞くと、どこを思い浮かべるだろうか。首都アムステルダムが一番知名度があると思われるが、サッカー好きの方なら、かつて小野伸二選手が在籍したフェイエノールトの本拠地ロッテルダムも連想されるかもしれない。けれど、オランダと日本の関係を語る際に決して忘れてはいけないのが「ライデン」(Leiden)という街だ。今回は、ライデンと日本の浅からぬご縁について紹介していきたいと思う。
レンブラントの出身地にある大学
ライデンはオランダの中西部に位置する街で、首都アムステルダムからは南西に約36km離れている。バロック絵画を代表する画家、レンブラントの出生地としても知られている。
1575年に設立されたオランダ最古の大学、「ライデン大学」を有する大学街としても有名だ。ちなみに現国王ウィレム=アレクサンダーや、2020年で就任10年を迎えたオランダのルッテ首相も、このライデン大学の卒業生だ。
そんな名門ライデン大学は、1855年に世界で初めて「日本学科」が設置された、日本と非常に関わりの深い大学でもある。何故ライデン大学に日本学科ができたのかというと、日本史にも登場する江戸時代の「出島の三学者」の一人であるシーボルト(Philipp Franz Balthasar von Siebold)が日本から国外追放された後、一時期オランダのライデンに住んでいたことに由来する(シーボルト自身はドイツ人)。当時のシーボルト邸はライデン大学から目と鼻の先で、研究のために大学に出入りしていたという。日本学科の初代日本語教授は、シーボルトとも交流のあったヨハン・ヨーゼフ・ホフマンが務めた。設置から150年以上たった現在も学科は健在で、所属学生たちは熱心に日本語を学んでいる。
日本庭園のある大学植物園
更にライデン大学敷地内にある広大な植物園(Hortus botanicus Leiden)の一角に日本庭園が設けられ、日蘭関係の橋渡しとなったシーボルトの功績を偲べるようになっている。
庭園散策に疲れたら腰掛けられる東屋もあり、オランダにいるのを忘れてしまうほど日本的な空間に仕上がっている。
コレクションが圧巻の「シーボルトハウス」
そしてライデン大学のすぐ近くには、かつてシーボルトが住んでいた家を改築した日本博物館「シーボルトハウス」(Japanmuseum SieboldHuis)もある。
シーボルトが日本滞在中に収集し、ひそかにオランダに持ち込んだコレクションを展示している。コレクションと言っても、江戸時代の日本人が使用していた日用品が大半なのだが、当時の人々の生活を知ることのできる貴重な品々でもある。
オランダ国内のコロナルールが適用され、2020年秋現在は完全予約制で、館内の閲覧者の人数が制限されている。けれどその分、静寂の中で当時の生活に想いを馳せることができる。
街角に見る日本の面影
植物園や博物館といった正規の施設以外でも、ライデンの街には日本の面影を見出すことができる。代表例が、おもむろに現れる巨大な俳句。なんと民家の壁に芭蕉の俳句(荒海や 佐渡によこたふ 天の川)が書かれているのだ。ライデンの街にはこういった壁に書かれた世界各国の詩が100か所以上存在し、芭蕉の句はそのひとつでもある。他に日本からは、菅原道真と新国誠一の作品が「壁の詩」として採用されている。
驚くのは、「デシマ通り」(Decimastraat)という、日本の出島から名称を得た道があるということ。他に「シーボルト通り」(Sieboldstraat)もあり、地名にも日蘭関係の歴史が反映されている。
そのデシマ通りには「Caféデシマ」もあるが、中は普通のオランダのパブだ。けれど欧州のオランダで、日本に縁のある名前に遭遇すると、何とも言えない嬉しさがこみあげてくる。
このように、ライデンの街中には日本とかかわりのあるポイントがあちらこちらに見受けられる。江戸時代から続く日本とオランダの関係を体現する、貴重な場所だと言えるだろう。
「ライデン大学」(Universiteit Leiden)
住所:Rapenburg 70, 2311EZ Leiden
電話:+31(0)71-5272727
公式ホームページ:https://www.universiteitleiden.nl/
「ライデン大学植物園」(Hortus botanicus Leiden)
住所:Rapenburg 73, 2311GJ Leiden
電話:+31(0)71-5275144
公式ホームページ:https://www.hortusleiden.nl/
「日本博物館シーボルトハウス」(Japanmuseum SieboldHuis)
住所:Rapenburg 19, 2311GE Leiden
電話:+31(0)71-5125539
公式ホームページ:https://www.sieboldhuis.org/
文・写真/倉田直子(海外書き人クラブ/オランダ在住ライター)
北アフリカのリビア、イギリスのスコットランドでの生活を経て、2015年よりオランダ在住。主にオランダの文化・教育・子育て事情、タイニーハウスを中心とした建築関係について執筆している。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。