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文・写真/倉田直子(海外書き人クラブ/オランダ在住ライター)

アンネ・フランクのポートレート

アンネ・フランクをご存知だろうか。 ユダヤ人であるがゆえ、第二次世界大戦中のオランダで2年の隠れ家生活を余儀なくされた少女の名前だ。彼女が家族や他のユダヤ人との隠れ家生活を綴った「アンネの日記」は、世界中で翻訳されて読まれている。どうしても隠れ家生活に注目が集まってしまうが、アンネの15年間の短い人生の中にも幸せな時代はあった。そんな彼女の普通の日々の象徴として、彼女が通っていた小学校を紹介したい。

アンネ・フランクとモンテッソーリ小学校との出合い

アンネ・フランクとその家族は、もともとはドイツで生まれた。けれど1933年に反ユダヤ主義を掲げるヒトラーが政権を握って以来、ユダヤ人のアンネ一家には迫害の手が迫ってきた。父オットーはドイツからオランダのアムステルダムへ生活の拠点を移すことを決意し、1934年には当時5歳だったアンネも呼び寄せられた。

アンネ・フランクが通った小学校

移住したアムステルダム・ザウド地区の自宅の近くにあった、モンテッソーリ小学校の付属幼稚園にアンネは通い始めた。そして(当時のオランダの)学齢に達した翌年には、同じ施設内の小学校に入学する。

モンテッソーリ教育とは

モンテッソーリ教育を採用した学校の教室

モンテッソーリ教育は、20世紀初頭にイタリア人のマリア・モンテッソーリによって編み出された教育法で、近年では世界中で知られるようになった。この教育法のモットーのひとつに「自由と規律」がある。ルールの範囲内であれば生徒には多くの自由が約束され、自分のレベルに合う勉強を、自分が決めたように行うことができる。
本部がアムステルダムに設置されているということもあり、2020年現在、首都アムステルダムだけでも24校ものモンテッソーリ・スクールが存在する。アムステルダム全体では小学校は253校あるので、その中でモンテッソーリ校が占める割合は約9.4%にもなる。

アンネが当初通い始めた幼稚園は姉マルゴットが通う小学校とは異なる小学校の系列園だったが、父オットーと母エディットは、この園を「最高の選択だった」と述懐している。当時まだオランダ語がおぼつかなかったにも関わらず、アンネは常に誰かに何かしらの疑問を投げかけ、大人の注意を必要とする子供だった。そんな彼女に対しモンテッソーリ幼稚園は、規律で縛ることなく、自由な時間をふんだんに与えてくれたのだという。もしこの頃にアンネの個性を刈り取られていたら、後に彼女は「アンネの日記」であの創造性や独自性を発揮できていなかったかもしれない。

「第6モンテッソーリ アンネ・フランク小学校」

けれど、アンネの幸せな日々は永遠に続いたわけではなかった。1941年、ユダヤ人はユダヤ人学校以外に通うことを禁止する法律がオランダで公布されてしまったのだ。当時そのモンテッソーリ校に通っていたアンネと他のユダヤ人生徒たちは、転校を余儀なくされてしまった。
(アンネの一家が隠れ家生活に入るのは1942年7月から)

かつて在籍したユダヤ人生徒の名簿

時を経た2001年、このモンテッソーリ校の校長は、校内で古い登録簿を2冊発見する。この1941年に転校したアンネと他の129名のユダヤ人生徒の名前を把握した彼は、校内に彼らの名前を記したパネルを掲揚するようになった。

アンネ・フランクの名前も

もちろんこのパネルには、アンネ・フランクの名前と没年および亡くなった場所が記されている。

アンネの筆跡が外壁に描かれている

現在も運営されているこの小学校は、1983年にアンネの名前を冠し「第6モンテッソーリ アンネ・フランク小学校」(6e Montessorischool Anne Frank)と正式名称を変更した。それと同時に、外壁に「アンネの日記」に残されているアンネの筆跡をアレンジしたデザインが施された。ちなみにこの外壁のデザインをしたのはHarry Visserというアーティストで、奇しくもアンネと同じ年齢のユダヤ人。本人も戦時中は隠遁生活を経験したのだという。この校舎には、アンネのみならず、多くの戦争体験者の想いが載せられているのだ。

小学校の内部にはアンネの面影が

この小学校は観光名所ではないので、通常は一般公開されていない。けれど校長のご厚意で、筆者は小学校の内部を見学する機会を得た。その際に見られた様子を一部ご紹介したい。

学内で撮影されたアンネの写真

数少ないアンネのポートレートとして知られるこの写真は、この小学校校内で撮影された。

アンネの写真が撮影された一角

現在もこの撮影された一角(ストーブ前)は保全されている。この日はオランダ独自のイベント「シンタクラースの日」(毎年12月5日に学校でお祭りがある)のための飾りで装飾されていた。にぎやかで、陽気なアンネも喜んでいるのではないだろうか。

アンネが通った当時の机と椅子

アンネが通学していた当時の机と椅子も、1セット保全されていた。花も飾られていて、今でもユダヤ人生徒たちへの想いを繋いでいるのだと見て取れる。

最新鋭の設備も

スマートボードを備えた教室

そんな歴史あるアンネ・フランク小学校だが、アンネの時代の面影を残しつつも最新鋭の教育機器も備えている。各教室には、スマートボードが設置されていた。

パソコンも交代で使用できる

デスクトップパソコンも完備している。古いものを大切にしつつも、現代的な進化を遂げているのだ。

廊下のスペースも有効活用

実は2024年には、この校舎の大規模なリノベーション工事の計画があるのだという。経年劣化には逆らえないので、補修は大切だ。けれど、ぜひともアンネ・フランクや他のユダヤ人生徒を偲ぶモニュメントは、保全していって欲しいと思う。

「6e Montessorischool Anne Frank」
住所:Niersstraat 41, 1078 VJ Amsterdam
電話番号:+31(0)20 6640482
公式ホームページ:https://www.annefrank-montessori.nl/

参照:
Informatie over basisscholen met onderwijsconcept Montessori
https://scholenopdekaart.nl/Basisscholen/onderwijsconcept/montessori
Buitenbeeldinbeeld – Dagboek
https://www.buitenbeeldinbeeld.nl/ZuiderAmstel/Dagboek.htm
The Story of Anne Frank アンネ・フランク物語
https://www.amazon.co.jp/dp/B00EXOD11E/

文・写真/倉田直子(海外書き人クラブ/オランダ在住ライター)
北アフリカのリビア、イギリスのスコットランドでの生活を経て、2015年よりオランダ在住。主にオランダの文化・教育・子育て事情、タイニーハウスを中心とした建築関係について執筆している。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。

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