4月6日発売の『サライ』5月号大特集「地図でニッポン再発見」にちなんだ特別付録「葛飾北斎『東海道名所一覧』」は、江戸時代の天才絵師が描いた壮大な鳥瞰図の傑作を、作品が入れられていた当時の袋も再現しつつ原寸大で復刻した一枚である。ここでは、北斎にしか成し得ない異次元なる鳥瞰図の魅力と見どころについて、類似作品と共に解説する。
葛飾北斎『東海道名所一覧』
※各宿場の名称表記は現在、一般的に使用されているものです。一部、図版内の表記とは異なります。また、本図版は宿場の位置を明確にするため全体の色調を薄くしています。
【北斎と鳥瞰図】視覚の魔術師・北斎が描く鳥瞰図の魅力とは
「絵に描けぬものはない」とばかりに森羅万象、この世の全てを描き尽くした天才浮世絵師・葛飾北斎。ほとばしる才能を数多の画面に投影し、異次元の世界を探求し続けた奇跡の画家である。そんな北斎を象徴する作品ともいえるのが、特別付録で取り上げた『東海道名所一覧』であり、以下に掲載したふたつの鳥瞰図的な作品だ。
地名や名所を探す楽しみ
江戸時代も中頃を過ぎると、「お伊勢参り」や「富士講」などを通じて一般庶民の間にも「旅」が浸透していく。人々が西へ東へと移動するようになると、絵地図や旅先の情報を絵入りで紹介した名所図会のブームが起きる。北斎がこのような鳥瞰図を表したのも、人々のまだ見ぬ土地への憧憬を浮世絵の中で満たそうとした帰結だったのかもしれない。いずれにしても、地理的構造を見事なまでにデフォルメし、独自の空想世界を描写し得た北斎の卓越した想像力と画力には舌を巻くしかない。
「北斎が描く鳥瞰図は、単に地図的要素をダイナミックに構築し直しただけではありません。本作のように富士と日の出を画面左上に象徴的に描き出すという構図の妙があり、風景画としての完成度の高さがある。見るものを決して飽きさせない画面構成が魅力です」
そう語るのは本作を所蔵するすみだ北斎美術館の主任学芸員・奥田敦子さん。奥田さんは「絵に描かれた名所や自分の知っている地名を、画面を辿りながら見つけてゆくのもこの絵を鑑賞する大いなる楽しみです」と教えてくれた。
葛飾北斎『総房海陸勝景奇覧』
葛飾北斎『木曾路名所一覧』
『東海道名所一覧 袋』
【展覧会情報】
「北斎 大いなる山岳」
富士山が世界文化遺産に登録されて10周年となることを記念し、富士山を象徴的に描いた北斎による日本の多彩な山の表現と、そこに秘められた日本人と山との深いつながりに迫る展覧会が開催される。
すみだ北斎美術館
東京都墨田区亀沢2-7-2
電話:03・6658・8936
前期/6月20日(火)〜7月23日(日)、後期/7月25日(火)〜8月27日(日)※前後期で一部、展示替えを予定。
開館時間:9時30分〜17時30分(入館は17時まで)
休館日:月曜 ※ただし7月17日(月)(祝)は開館、7月18日(火)は休館。
入館料:一般1000円ほか
https://hokusai-museum.jp/
※上記掲載した作品は、すみだ北斎美術館で開催される「北斎 大いなる山岳」の出品作です(『東海道名所一覧 袋』は除く)。展示替えなどの出品情報は同館のホームページをご参照ください。
※この記事は『サライ』本誌2023年5月号より転載しました。