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「アメリカ英語」の生みの親は誰? 米語辞典から学ぶ新しい英語(4)【世界が変わる異文化理解レッスン 基礎編33】

文/晏生莉衣
「アメリカ英語」の生みの親は誰? 米語辞典から学ぶ新しい英語(4)【世界が変わる異文化理解レッスン 基礎編33】世界中から多くの人々が訪れるTOKYO2020の開催が近づいてきました。楽しく有意義な国際交流が行われるよう願いを込めて、英語のトピックスや国際教養のエッセンスを紹介します。

* * *

趣味で英語を学び直そうと思い立って、まずは良い辞書を探してみようとしたけれど、いろいろあるのでどれを使えばいいのかわからないと迷ったことはありませんか? 一口に英語の辞書と言ってもそれぞれに特徴があるので、その中から自分の目的にあったものを見つけるのはけっこうむずかしいものです。

これまで3回に渡り、「メリアム・ウェブスター辞典」から新語や新語義を取り上げてきましたが、この辞典にはどんな特徴があるのでしょうか。それはなんといっても、「メリアム・ウェブスター辞典」が「米語辞典」であることです。そして、各分野の専門用語からアメリカで使われている日常的な語句まで包括的に収録し、語義の解説に優れているなど、米語文化を網羅する手引きの書としてアメリカでもっとも信頼され、利用されている辞典という評判があります。

この辞典のオリジナル編纂者であるノア・ウェブスター(Noah Webster)(1758-1843)は、アメリカ人が使う英語を本家の「イギリス英語」と区別し、「米語」を確立したことで知られている人物です。「アメリカ英語」とも言われますが、この“American English”という表現もウェブスターが考え出したとされています。イギリス英語とアメリカ英語あるいは米語には様々な違いがあることは本連載の始めにもご紹介したとおりですが(レッスン1参照)、単語のスペリング(綴り方)の違いを意図的に創ったのがウェブスターなのです。

例えば、以下のようなスペリングの違いがあることをご存知の方も多いでしょう。
・labour(英)/ labor(米)(労働、労働力)
・centre(英)/ center(米)(センター)
・programme(英)/ program(米)(プログラム)
・analyse(英)/ analyze(米)(分析する)
-ourを -or に、-reを -erにといった典型的な違いは、同型パターンの他の単語にも適応されていますが、それぞれ2番目に書かれているアメリカ英語の綴りは、イギリス英語よりもより発音に合致し、シンプルなものにする意図によってウェブスターが創り出したものです。

「米語」を求めた理由

まだイギリス植民地だったアメリカに生まれたウェブスターは、若き学生の頃に勃発したボストン茶会事件から始まる独立戦争とアメリカ合衆国の誕生という歴史の荒波を経験しました。独立後もイギリス英語がそのまま使われる一方、地方によって異なる発音がされるなど、アメリカの言語の乱れを懸念したウェブスターは、言語文化においてもアメリカはイギリスから独立するべきだと考え、アメリカ独自のスペルリングを考案して米語の統一化を図り、その普及活動に力を注ぎます。そして、その「米語」は、建国された新しい国へのプライドと愛国の精神にあふれていた社会によって受け入れられて、標準語として全米に定着していきました。結果的にアメリカの独自言語文化の発展に大きく貢献したウェブスターは、「隠れた建国の父」と称されることもあります。

具体的にその業績を紹介すると、大学卒業後、生計のために教師の職に就いたウェブスターは、アメリカ人の子どもはアメリカの教科書で学ぶべきだという信念から小学生向けの教材を自ら執筆。ウェブスターが創作した教材セットは19世紀中のアメリカで聖書の次に売れた本とされるほどの大ベストセラーとなりました。総売り上げ部数は推計で1億部とも言われ、その大成功で資金を蓄えたウェブスターは、やがて辞典の編纂作業に取りかかるのですが、辞典を考案するにあたっては、それまでの英語辞書に収められている単語の定義を収録するだけなく、独立を果たしたアメリカが持つオリジナルの政治形態や法律、慣習などを表す語句を幅広く取り入れる必要性を見出し、それに加えて、急な発展を遂げる科学やテクノロジー分野の用語も含める努力を払いました。

そして25年以上の言語的研究や収録語の収集調査を経て1828年に集大成として出版されたのが、“An American Dictionary of the English Language”です。意訳で「米語辞典」「アメリカ英語辞典」というようなタイトルになりますが、このウェブスター編纂による2巻組の辞典が、のちに「ウェブスター辞典」と呼ばれるようになる辞典の原典です。出版当時、ウェブスターはすでに70歳。息子の手を借りて初版に続く改訂版を出しますが、どちらも高価だったため売れ行きはふるわず、辞典が高い知名度を誇るまでに普及するのを、ウェブスター自身は見届けることが出来ませんでした。

受け継がれたレガシー

彼の死後、ウェブスター辞典の諸権利を獲得し、ウェブスター辞典の新改訂版を始め、同辞典のレガシーを引き継ぐヴァリエーションを編纂、刊行したのが、ジョージとチャールズというメリアム兄弟が設立したマサチューセッツ州の出版社、G. & C. Merriam社です。同社が1982年に「メリアム・ウェブスター社」(Merriam-Webster, Incorporated)に改称したことにより、以後、Merriam-Webster’s Dictionary(メリアム・ウェブスターの辞典)と呼ばれることになって現在に至っていますが、他の多くの出版社が「ウェブスター辞典」と銘打って似たような辞書を出しているため、メリアム・ウェブスター社発行のものには扉に続いて「A GENUINE MERRIAM WEBSTER」(正真正銘のメリアム・ウェブスター)という注意書きとも断り書きとも言える文言が記されています。

ウェブスターはここでは触れていない辞典編纂以外の様々な業績も残しており、多くの伝記が書かれています。日本人の間ではその名はあまり知られていませんが、ノア・ウェブスターは間違いなく、英国から独立を果たした時代のアメリカンヒーローの一人であり、コネティカット州にある生家はNational Historic Landmark(アメリカ合衆国国定歴史建造物)に指定され、現在、「ノア・ウェブスター・ハウス」というミュージアムになっています。

文・晏生莉衣(Marii Anjo)
教育学博士。20年以上にわたり、海外で研究調査や国際協力活動に従事。途上国支援や国際教育に関するアドバイザリー、平和構築関連の研究等を行っている。

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