
同居期間20年以上の、いわゆる「熟年離婚」が増えているという。2022年『人口動態統計』(厚生労働省)を見ると、離婚の全体件数は約18万組(ピークは2002年の約29万組)で減少傾向にある。一方で、増えているのは、同居期間20年以上の夫婦の離婚だ。ここ20年以上、4万組前後の高止まりを続けている。全体件数に占める「同居20年以上」の割合は23.5%で、前年比1%程度の増加を続けている。
俊一さん(62歳)もそのうちの一人だ。定年退職の数年前に、30年近く連れ添った妻と離婚した。「熟年離婚というと、妻が周到に準備をして、夫に離婚を突きつけるケースがクローズアップされているけれど、ウチはその逆」という。
専門商社を60歳で定年退職してから離婚し、タクシーの運転手として楽しい毎日を送っているという。
【これまでの経緯は前編で】
「コップに飲み物を残すな、靴下は裏返せ」
俊一さんの妻は、自分が正しいと思ったことを、家族にも強要する性格だったという。
「生活全般が口うるさい。靴を揃えろと怒られ、飲み切れなかったビールをコップに残せば叱られる。靴下を裏返して脱衣カゴに入れないと文句を言われる。毎日のようにダメ出しをされていました」
そうなると、家に帰りたくなくなるので、仕事に打ち込む。率先して出張するようになる。
「浮気防止のために23時に電話がかかってくるとはいえ、それさえクリアしてしまえば自由。飲みにも出られるので、家にいない方が楽なんですよ。テレビ電話機能付きのガラケーが登場してからは、ホテルへの電話ではなく、周囲の風景を映せば納得してくれましたしね」
妻の執念のような管理をおかしいと指摘したのは、出張先のノルウェーでばったり会った大学の同級生だった。
「お互いに50歳といういいオヤジになっていたんですが、すぐにわかるもので、その夜飲みに行くことにしたんです。彼は船会社に勤務しており、外航船の機関士として働き、数か月間を船上で働く生活をしていた。彼は独身で、長い休暇と驚くほど高い給料を、自由気ままに使っていることが純粋に羨ましく、“生まれ変わったら、お前になりたい”というと、彼は“俺は家庭の味を知らないまま終わるんだよ”と言ったんです」
その時、俊一さんの電話が鳴った。妻とは、いつものようにテレビ電話で周囲を映して、特に会話もしないまま電話を切る。
「彼は、“今のはなに?”というから、妻から浮気していないかどうかの確認だというと、“日本は朝の6時だろ。そんな時間に、お前が浮気していないか確認するって、ちょっと怖いぞ、それ”と言ってきたんです」
彼は、俊一さんが大学の卒業旅行でインドに行かなかったことを覚えていた。「強烈なマザコンがいると思ったけれど、結婚してからも、それか」と呆れていた。
「日本から遠い場所で会った、仕事とは無関係の同級生ということもあり、結婚生活の不満を色々話したんです。そしたら彼は、“俺たちはあと10年で定年になる。時間ができて、その奥さんとずっと一緒に生きられるのか?”と聞いてきた。それに対して、“絶対に嫌だ”と即答しちゃったんですよ。その頃から、離婚を意識し始めたのです」
俊一さんは、家事は一通りできる。妻との関係に愛情を感じるコミュニケーションは、15年以上していない。妻と離れて生活する未来を思うと、胸が踊った。
「今すぐ、離婚して一人暮らしがしたいと思いましたが、それは難しい。そこで、弁護士に相談しつつ、計画を立てていったのです」
弁護士は、離婚に強い男性弁護士を選んだという。
「男は男の味方をしてくれると思いましたが、その通りでした。弁護士さんも妻の行動には驚いていた。日々の小言を録音した音源を聴くと、“あなたは何を言ってもダメ”など、人格否定を含む発言もあった。弁護士に相談するまで、離婚という大それたことをするのには、迷いがあったのですが、人に話すと意思は固まっていく。そして、迷いながらも、準備を進め52歳の時に別居に踏み切ったんです」
【「もう、自由にしてあげたらどうですか?」……次のページに続きます】
