野趣あふれる男の刃物!日本の漁師達が愛した万能ナイフ「マキリ」【にっぽん刃物イズム第2回】

凝った鞘のマキリ。北海道標津町で。

文・写真/かくまつとむ

名前が風変わりなら、形も個性的。しかも用途と歴史的背景がユニーク。「マキリ」は私がいちばん好きな刃物です。

形状で独特なのは、包丁のように握ったとき指をかける手元のくびれがなく、刃の後端がそのまま木の握りに接していること。わかりやすく言うと、かつての任侠映画で鶴田浩二や高倉健が懐に忍ばせていたドス(短刀)。あんな形です。

けれど、マキリは少しも物騒な道具ではありません。漁師御用達の刃物です。私がはじめてマキリをじっくり見たのも、北海道の定置網漁の現場でした。大きな木鞘に収まったマキリを、老若問わず腰に結わえて仁王立ちする姿は、まさに男の世界でした。

定置網漁師とマキリ。背中に注目(北海道標津町で)

網を固定している紐を切ったり、絡んだ障害物を切って外すのがマキリの主な用途ですが、陸に上がると網を繕う作業刃物や、魚をさばく包丁としても使います。つまり、浜の万能刃物です。

漁師がナイフ作家に特注したマキリ(北海道標津町で)

ルーツはアイヌが使っていた刃物で、名前もアイヌ語の「小刀」から来ています。

マキリは想い人への贈り物でもあり、アイヌは鞘に凝った彫刻を施していました。現代の漁師もこの風習をそれとなく引き継いでいます。竜虎や竹林の七賢といった縁起柄を、自分で彫ったり特注して楽しんでいる漁師が大勢います。

木鞘に収まったマキリは、海に落としても沈まないことも漁師に愛用されてきた理由です。

宮城県雄勝町で見たマキリ。鞘が赤い。

北海道の沿岸域ではとてもポピュラーな道具で、水産加工の現場で使われる包丁の多くもマキリ型です。サケからイクラを取り出す工場では、筋子を傷つけないよう先端に丸い玉を溶接した専用のマキリがあったり、切り身にしやすいよう刃形が波刃になったものがあったりします。

水産加工場で使われているマキリ型の作業刃物(標津町)。

宮城県塩竈漁港。マグロのセリの現場でもマキリが使われていた。

さらに興味深いのは分布圏です。私が調べた範囲では、南へ下がった青森を軸に、太平洋側は宮城県まで。日本海側は島根県付近まで使われています。

いずれも沿岸域で、海と山が接している能登半島を除けば、内陸部ではあまり使われていません(昔のマタギの刃物にはマキリ様のものはあります)。

能登半島のマキリ(左)石川県能登町で。地元の鍛冶屋が鍛える。

まったくの推測なのですが、マキリ文化は北前船が運んだものではないかと思ってます。昆布などの蝦夷の産物を日本海ルートで運ぶ過程で、アイヌに由来するこの刃物文化も携えられていった――。そう考えるのが仮説として最も筋道が立っています。

とはいえ、下関から回り込んで大阪へ向かう瀬戸内海ルートの港には、この形状の刃物が好んで使われた形跡がありません。昆布の終着駅である沖縄でも見ることができません。引き続き調べていきたいと考えています。

マキリに興味を覚えた方は、前述のエリアの港町を旅したときに金物店や船具店に立ち寄ってみてください。出会える確率はかなり高いはずです。

文・写真/かくまつとむ
かくまつとむ(鹿熊勤) 自然や余暇、一次産業、ものづくりなどの分野で取材を続けるライター。趣味は日本の刃物文化の調査、釣りと家庭菜園&酒。『サライ』には創刊号から参画。著書に『鍛冶屋の教え』(小学館)、『日本鍛冶紀行』(ワールドフォトプレス)、『糧は野に在り』(農山漁村文化協会)など。立教大学兼任講師。

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