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文・写真/かくまつとむ

もう3月だというのに餅の話題って、季節感ずれているんじゃないの?と思った方もいらっしゃると思います。でも、それはちょっと違います。お餅は正月だけの食べ物ではありません。

わが家では、茨城県にある妻の実家から、ちょくちょく餅が届きます。農作業に一区切りついた、親戚に慶事があったなど、ことあるごとに餅を搗き、それをのし餅にして配るのです。

餅はずいぶん前から電動餅つき機で搗いています。昔のように臼と杵でいちいちつくのは、正直いって大変。しょっちゅう餅がつけるのも、じつは手早く便利な専用の器械があるおかげ。おそらく日本中がそうに違いありません。日本の麗しい餅文化は、電動餅つき機というマシンにかろうじて守られているのです。

近年のはやりは、柔らかい熱々のうちに、のし餅専用のビニール袋に流し込むように入れて密閉すること。こうするとカビが出ず、長く保管できます。そして袋には、切るときの目安として格子状の線が印刷されています。つまり、どういうことかというと「あとはもらった人間が自分で切れよ!」ということなんですね。

だがしかし、じつはこの餅切り作業がなかなか大変なのです。

まず、のし餅はやたらと大きい。普通のまな板に置くとはみ出してしまいます(なので、パンこね台を使っています)。次にやっかいなのは、切りにくいこと。やわらかいと包丁の刃に粘りつき、固くなるとかなり力を入れないと刃が食いこみません。

なので、一般的な料理包丁で切るわけにはいきません。出刃包丁くらいの厚みと重みがないと、力を入れたときに刃が欠けることがあります。

とはいえ、出刃包丁も帯に短し、たすきに長し。片刃なのでまっすぐ切っているつもりでも刃が斜めに進んでしまいます。のし餅を切るには長さが足りないので、何度も刃を当て直さなければなりません。

そんなときに買ったのが、この餅切り包丁。本体は出刃ほど厚くありませんが、一般的な文化包丁などよりはがっしりした両刃造り。刃長はのし餅を切るには十分な20㎝.同じ幅の刃は緩やかに孤を描き、両端にはしっかりした握りがついています。

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ふたつの握りをしっかり持って刃をのし餅に当て、体重をかけながらゆっくりローリングさせると、餅はゆっくりとまっすぐに切れてくれます。

見つけた場所は、日本の中でもとりわけ餅好きな土地として知られる宮城県。薄物と呼ばれる、包丁と鎌を専門に鍛える鍛冶屋でした。もう20年ほど前になります。作った職人さんはもう亡くなっていますが、ネットで「餅切り包丁 両手」といったキーワードで検索すると、似たような包丁があちこちで売られています。

文・写真/かくまつとむ
かくまつとむ(鹿熊勤) 自然や余暇、一次産業、ものづくりなどの分野で取材を続けるライター。趣味は日本の刃物文化の調査、釣りと家庭菜園&酒。『サライ』には創刊号から参画。著書に『鍛冶屋の教え』(小学館)、『日本鍛冶紀行』(ワールドフォトプレス)、『糧は野に在り』(農山漁村文化協会)など。立教大学兼任講師。

 

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