取材・文/坂口鈴香
親の介護にかかるお金について考えている。【2】で紹介した松原さんや大月さんのように、きょうだい関係は介護にも大きな影を落としている。きょうだいとの関係もさまざまだ。
親の介護にかかるお金、どうしていますか【2】はこちら。
姉から帰省の催促が
石田正成さん(仮名・61)は、九州出身だ。姉が母親の近くに住んでいるので、日頃の世話を姉にお願いできているという点では恵まれている。
「姉は自営業で、比較的時間の自由が利くので助かっています」
それでも母親が90代になると、これまでのように正月だけ帰省するというわけにはいかない。ここ数年は3か月ごとに帰省しているという。
「姉もストレスがたまるようで、『そろそろ帰って来れないの?』と言ってきます。それで慌てて帰る、という感じですね」
だからもちろん交通費は自腹だ。姉にも特段お礼をしているわけではないという。大学から親元を離れた石田さんにとって、実家との距離感は姉とはまったく違う。姉にお礼をするというタイミングもいまさらという感じがして、なんとなく流してしまっているというわけだ。
姉もたまったストレスを小出しに弟にぶつけられるうちは、まだ大丈夫……だとは思うが。
ヘルパーの回数を増やすより帰って来て
男兄弟の場合はどうだろう。
秋元淑子さん(仮名・60)の夫は、中国地方で一人暮らしをする認知症の母親のもとに、出張に合わせて毎月帰っている。実家近くに弟夫婦がいるので、日ごろの買い物やデイサービスの準備などは弟夫婦がしてくれている。弟夫婦に負担をかけているのが心苦しくて、自分が費用を負担するからヘルパーの回数を増やしてはどうかと提案したが、「それよりも、兄さんが帰る回数を増やしてほしい」と言われたのだという。
「お金の問題ではなく、義母の様子を夫本人の目で見てほしいのだろうと思います」
そういうわけで、当然交通費は自腹だ。
落合和枝さん(仮名・58)の夫も男兄弟だけだ。義兄も夫も神奈川県に住んでおり、中部地方で二人暮らしをする両親のもとに交代で帰っている。実家は駅近で便利な場所にあるのだが、車で帰っているという。帰省した先で、おむつなどかさばる介護用品などの買い出しをしないといけないからだ。義兄と夫は会話が多い方ではないが、どちらが何をするのかなど暗黙のうちに通じ合っているようだと落合さん。
「阿吽の呼吸なのか、交代で帰省することで両親の生活もうまく回っています」
肝心のお金についてはどうだろう。ガソリン代や高速代は自腹だが、義父が毎回お金をくれると明かす。ちなみに年金は二人で月25万程度。蓄えはそう多くなさそうだと夫は言っているが、二人が自宅で生活できている今は、息子たちに帰省費用を渡してもまかなえるくらいの年金額だ。ただ、今後どちらかが施設に入居することになれば、施設費用と自宅に残った親の生活費が二重にかかり、年金では足りなくなるだろうと危ぶむ。
「どちらか一人になればいいのでしょうが。いざとなれば実家が良い場所にあるので、家を売却すればかなりの金額になると思います」
「どちらか一人」になるまでは、何とか踏ん張るしかない。
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介護のお金事情、いかがだっただろうか。「介護にかかるお金は親のお金が原則」と専門家は口をそろえて言うが、それができる親ばかりではない。話を聞きながら、ふと今はやりの「親ガチャ」という言葉が頭をよぎった。「親ガチャ」当たりの子どもは、「きょうだいガチャ」も当たりの人ばかり。親にとっては「子ガチャ」も当たりだ。「ガチャ」にかかわらず、安心して送れる老後がほしい。
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。
親の介護にかかるお金、どうしていますか【1】親の終の棲家をどう選ぶ? https://serai.jp/living/1211068
親の介護にかかるお金、どうしていますか【2】親の終の棲家をどう選ぶ? https://serai.jp/living/1211072