取材・文/坂口鈴香
「これ以上、遠くに住む親が一人で暮らしていくのは無理かもしれない」と思ったとき、あなたならどうしますか?
「親の終の棲家をどう選ぶ? 夫の家庭を壊した義父の介護」【1】~【5】 に登場してくださった関西在住の迫田留美子さん(仮名・49歳)は、義父の地元、南九州の施設に入れるのをあきらめた。「義父に何かあって、急に家族が呼ばれても関西から南九州まではとてもすぐに駆け付けることができない」というのがその理由だ。
親が住み慣れた地元の施設に入れたいと思っても、親に何かあったときにすぐ駆け付けることができないと、入居を断られるのだろうか。
そこで、2人の施設の担当者に「子どもが遠くにいる場合、親の地元の施設に入れるのは無理なのか」聞いてみた。
まずお話を聞いたのは、有料老人ホーム入居相談センターで相談員の経験もあり、現在は都内の有料老人ホームで生活相談員をする丸田明宏さん(仮名)だ。
丸田さんは「親が住み慣れた地元の施設よりも、子どもの近くの施設に呼び寄せる方が望ましい」と言う。
【前編】はこちら
「すぐに駆け付けられる親族がいないと難しい」
――有料老人ホーム生活相談員・丸田さん
「子どもの近くの施設に呼び寄せる方が望ましい」とお答えする理由は、まさに「緊急時に駆け付けることができる」からです。
特に、介護型の有料老人ホーム(要介護と認定され、介護が必要な方を対象とした有料老人ホーム)では、すぐに駆け付けることのできるところに居住している親族を「身元引受人」としてお願いするのが普通です。やむを得ず、遠方のご家族が身元引受人になる場合でも、緊急のときには他の親族に駆け付けていただくように登録してもらっています。
親の心情的に、住み慣れた地元がいいという気持ちはよくわかりますが、現実的には駆け付けられる親族がいないと難しいというのが実情です。
身内が呼ばれる場面というのは、医療行為が必要になるときです。入院する場合でも、同意書の署名が必要なのでご家族が呼ばれますし、あとは人工呼吸器をつけるか否かなど、命の選択が必要なときです。
ただ、私が現在勤務している有料老人ホームは、自立型の有料老人ホーム(自立していて介護が必要ではない方を対象とした有料老人ホーム。介護が必要になったら、介護用の居室に移って介護を受ける)なので、お元気なうちは近くに親族がいらっしゃらなくても大丈夫だと容認しています。こうした対応をしている自立型の有料老人ホームは少なくありません。
ですから、私の勤務するホームでも自立の間は遠方の身元引受人でも容認していますが、あまり望ましいことではないので、時期が迫ってくれば見直していただくことにしています。
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次に、認知症の人が生活をするグループホームで管理者を務める日向貴代美さん(仮名)にお話を聞いた。
「ご家族が海外にいる方も入居されています」
――グループホームの管理者・日向さん
私たちのグループホームにも、ご家族が海外にいるなどという入居者の方はいらっしゃいます。こういう場合には、あらかじめ緊急時どうするか、ご家族と話し合っています。ご家族がそんなに遠くにいらっしゃらない場合でも、なかなか連絡が取れないということはありますので、入院手続きが必要なときは私たちがご家族に代わって記入して、ご家族には事後報告することもあります。またご家族の何らかの判断が必要なときには、お医者さまに事情を話して、お医者さまか医療機関からご家族に連絡を取ってもらうこともあります。
医療行為や処置には、私たちグループホームに決定権はありません。ですからそういうときのために、あらかじめご家族と話し合って納得いただいています。
また、身内が誰もいらっしゃらないという場合には、成年後見人(※)を立てるということも考えられます。
ご家族が親御さんを「どうしてもこの施設に入れたい」と思われるのであれば、ご家族が遠くにいても施設側はできるだけ協力してくれると思います。
また大きな特別養護老人ホームや有料老人ホームなど、医療施設を併設しているところもあるので、そういった施設を探してみるというのもひとつの方法ではないでしょうか。
※認知症や知的障害、精神障害などで、判断能力が不十分な人のために援助してくれる人を家庭裁判所に選んでもらう制度が「成年後見制度」で、本人にかわって財産の管理や契約の代理・取り消し、介護や医療のサポートを行う。成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」があり、判断能力の程度など本人の状況に応じて選ぶことができる。
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お二人のお話を総合的に考えると、施設によって対応は違うので、まずは施設に確認することだ。
そのうえで、親に何かあったら……と心配であったり、いざというときに自分が責任を持って対処したいと思ったりしているなら、子どもの近くで施設を探す。子どもが海外に住んでいるなどの事情があったり、この施設でどうしても親を見てほしいという強い希望があったりするなら、子どもがすぐに駆け付けることができなくても対応可能な施設もありそうだ。もちろん、どんな施設でも対応してくれるわけではないので、子どもの事情を伝えて、いざというときに柔軟な対応をしてもらえるか相談してみるとよいだろう。
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。