取材・文/坂口鈴香

写真はイメージです。

親の介護にかかるお金について考えている。【1】で紹介した人たちはかなり恵まれているケースだが、もちろん恵まれている人ばかりではない。親の介護費用やホーム入居費用まで払う覚悟をしている子どももいる。

親の介護にかかるお金、どうしていますか【1】はこちら

兄が母親の年金を使い込んでいる

松原里美さん(仮名・48)の母親は体調を壊して入院中だ。退院後自宅に戻さず、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)か賃貸マンションに引っ越させた方がいいのではないかと考えている。

「医師やソーシャルワーカーからは、自宅の環境が病気に影響しているから、できれば環境の良いところに引っ越した方がいいと言われました。仕事をしていない兄が母と同居しているのですが、二人で暮らし続けようとするとサ高住ではなく賃貸マンションしかありません。引っ越し費用は私が出すから、と言っているのですが、兄が納得してくれなくて困っています」

兄はパワハラで体調を壊し、勤めていた会社を辞めざるを得なくなった。今は母親の年金で暮らしている状態だ。母親の病気は気にかけつつも、引っ越しすると自分が適応できる自信がないと尻込みしているという。

兄の事情はわかるが、兄のために母親が犠牲になるのは納得できない。とても兄の面倒までは見切れないと、悩む松原さんだ。

兄が母親の年金を使い込んでいると憤るのは、大月ひとみさん(仮名・54)だ。やはり仕事をしていない兄が母親の年金で暮らしている。兄は認知症の母親の世話をするどころか、介護サービスを増やすことにも反対しているという。

「兄は母の年金を管理してやっていると言っていたので任せていたのが間違いでした。介護サービスを増やすと年金が足りなくなると言うのでこっそり通帳を見たら、たびたび現金が引き出されていて、これまでの蓄えが底をついていました。兄が使い込んでいるのだと思います」

大月さんは、母親の成年後見人選定の手続きをするとともに、選定されるまでは不足する分を自分が補って母親の介護サービスを増やすことを考えている。

いずれも深刻な8050問題(※)だ。相続でもめないよう、大月さんが穴埋めをした証拠は取っておいた方がいい、とアドバイスしたくなる事例だった。

※8050問題:80代の親が自立できない50代の子どもの生活を支え、社会から孤立したり、生活が困窮したりして行き詰っているケースも少なくない。

高速バスを使ったこともあったが……

首都圏に住む間中美佐さん(仮名・63)の実家は大阪だ。母親は父親が亡くなったあと、長く独身の妹と暮らしてきた。だが、母親が80代後半になり病気がちになると、妹一人に何もかも任せるわけにはいかず、毎月のように帰る必要が出てきた。

「お姉ちゃんは時々帰って来るだけで、お母さんから『お姉ちゃん、お姉ちゃん』と頼られてズルい、と妹に責められました。ずっと母と二人きりで、妹も相当煮詰まっているようです」

交通費は痛い。高速バスで安くあげていたこともある。バスの種類や座席を選んで、少しでも楽な工夫をしていたが、疲れが抜けなくなってきたので、今は新幹線ばかりだ。

母親から交通費をもらったことはないという。

「母は頭がしっかりしていて、お金についても細かいですね。体調を壊して仕事をしていない妹のために、少しでもお金を残してあげたいと思っているのでしょう。お金を下ろしにいくのを私に頼んでも、財布の紐は握っています」

介護はまだ続きそうだ。呼び寄せも含めて、これからのことを思案しているところだ。

親の介護にかかるお金、どうしていますか【3】につづく。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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