取材・文/坂口鈴香

男性介護者が増えている

「親の終の棲家をどう選ぶ? 妻と別居して東京から高知へ――妻の母親の介護」(https://serai.jp/living/1033653)で、妻の実家に単身移り住んで、妻の母親を介護する上岡晋さん(仮名・62)を紹介した。気負うことなく、高知での生活を楽しみながら介護する姿に理想的な「男の介護」を見た気がした。

「物忘れは年のせい? 親の老いを認めたくない息子たち」(https://serai.jp/living/1007582) 「息子介護、ここに注意! 親の老いを認めたくない息子たち」(https://serai.jp/living/1007584)でも、「息子介護」の落とし穴や注意点を挙げたが、「男の介護」は、弱音が吐けない、悩みを相談できない、周りの人と交流しないので孤立しがち、などと指摘されることが多い。

上岡さんの介護がうまくいっているのはなぜなのか。そのヒントとなる本がある。『男が介護する』(津止正敏著・中公新書)だ。著者の津止正敏氏は、2009年に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を立ち上げ、たくさんの男性介護者の話を聞き、男性介護の実態を把握している。今回はこの本を参考に、男性による介護がうまくいく要因を考えてみたい。

まず注意しておきたいのは、「男性介護者」といっても、上岡さんのように妻の親を介護している男性は非常に少ないということだ。嫁や娘が介護をするのが中心だった時代から、男性介護者の数は増えていて、同居の主たる介護者の3分の1を占めるほどになっている。とはいえ、そのほとんどが妻を介護する夫や、親を介護する息子であり、上岡さんのように娘の夫、つまり婿というのは0.3%にしか過ぎない。

この数字は、津止氏の調査によるもので(同書・図「同居の主たる介護者の続柄」)、1968年に50%近くを占めていた嫁は、2019年には9.8%にまで減少。20.5%だった妻は25.9%に、妻を介護する夫は4.5%から14.3%へと増加している。まさに老老介護の実態を表しているといえるだろう。そして娘は14%強のまま大きな変化がない一方で、息子は2.7%から娘とほぼ同率の14%強に増えている。「介護は実子」を裏付けるように、嫁の割合が大きく減り、それにかわって夫や息子という男性介護者が増えているというのは、数字の上からも明らかだ。

男性介護成功のポイント1「家事ができること」

男性が介護者となったときにまずネックとなるのが、「家事の困難」だ。『男が介護する』ではこう述べられている。

今まで「コーヒー1杯入れたことがなかったのに家事をするようになった」という70歳代の男性の戸惑いの声があった。今まで家事を一切しなかったのが、炊事・掃除・洗濯・買い物、そして郵便局・役所などの種々の用事をしなければならなくなった、というのだ。介護行為以上に家事の困難さを訴える人が多いというのも男性介護者の特徴の一つとして語られてきた。(同書)

入浴、排せつ、歩行や移動の介助などの身体介護は、

介護士などの援助職の支援を得ながら暮らすことが可能になり、主たる介護者一人で何もかもすべて賄わなくてもよくなってきた。(中略)介護を外部化することによって家族の手を離れ、大きく外に開かれていくというシステムである。しかし、家事はそうではない。ほとんどすべてを主たる介護者一人の責任としてこなさなければならない生活行為なのである。(同書)

あるケアマネジャーはケアプランを作成する際、料理がほとんどできない男性が介護者の場合、ヘルパーによる調理サービスを入れざるを得ないと打ち明けてくれた。介護保険の給付額は2019年には10兆円を超え、家事援助はヘルパーからボランティアの手に移そうとする動きもあるなか、男性介護者のためには生活援助サービスがどうしても必要になるというのが現実だ。介護保険で利用できるサービスが限られているのに、生活援助サービスを入れざるを得ないということにどこか割り切れないものを感じる。

こう考えると、上岡さんの介護がスムーズに回っている要因の一つは、家事が問題なくできることにあるといえるだろう。妻と共働きで、家事はやれる人がやるという生活をしてきたことが介護でも奏功したということだろう。

【後編】につづく。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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