取材・文/坂口鈴香

画像はイメージです。

「叔母の死後の手続きと父のホーム入居……起こった異変とは/シングル一人娘の遠距離介護」(https://serai.jp/living/1153013)で紹介した中澤真理さん(仮名・57)の叔父は、妻である中澤さんの叔母に先立たれサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に入居した。このサ高住は、自分で1階の食堂まで行くことができるというのが入居時の条件だったという。ところが入居時要支援1だった叔父は入居後急激に衰え、要介護2になってしまった。中澤さんも予想していなかったほどの急激な身体状況の変化だったため、この分では考えていたよりも早く介護付き老人ホームへの住み替えを検討しないといけなくなりそうだと、不安を打ち明けていた。

中澤さんは、このサ高住の性格について「介護度の軽い人向けの住まい」だと理解していたが、そうでなければ「サ高住に入ったからもう安心だと思っていたのに、なぜそんなに早く住み替えをしないといけなくなるのか」と不審に思う人もいるのではないだろうか。

これまでも親世代の住まいについて解説してきたが、改めてサ高住について解説しておこう。

「サービス付き」のサービスとは

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は「サービス付き」という名称から、介護サービスがついていると誤解する人は少なくない。しかし、この「サービス」とは介護サービスのことではない。「安否確認サービス」「生活相談サービス」のことを言う。安否確認は1日に1回から2回。居室を訪問してくれる場合もあるが、外出時や食事時にチェックしたり、生活リズムセンサーを活用したりという間接的な方法を取っている住まいも少なくない。居室には緊急通報装置がついているので、何か起これば職員やフロントを呼び出すことができる。ただ、夜間は職員を配置していない住まいもある。

食事のサービスはほとんどのサ高住についているし、掃除や洗濯などの生活支援サービス、買い物代行、病院への送迎などのサービスをオプションで提供している住まいもある。いずれも別料金となるが、必要なサービスを選択すればより安心して暮らせるだろう。

とはいえ、サ高住はあくまでも賃貸住宅だ。自宅で暮らすのと同じ扱いとなるので、介護が必要になると、入居者が介護サービス事業所と契約して、訪問介護を受けたり、デイサービスを利用したりすることになる。同じ建物に介護サービス事業所が入っているサ高住もあるが、あくまでもテナントとして入っているのであって、いつでも介護サービスが受けられるということではない。

つまりサ高住は、居室にミニキッチンや風呂(居室に風呂のないサ高住も少なくない)がついているなど比較的自由な生活ができることに加えて、職員が見守ってくれるという安心感のある生活を送れる住まい。だから前出の中澤さんの叔父のように、1階の食堂まで降りてこれなくなると他の施設に移ってほしいというサ高住も出てくるというわけだ。こうしたサ高住は、介護度が上がって手厚い介護が必要になると退去しないといけないなどという入居条件が記載されているので、「そんな条件は聞いていない」とならないよう、事前に確認しておくことが大切だ。

とはいえ、中澤さんの叔父とは逆のパターンもある。船田弘子さん(仮名・95)は、一人暮らしをしていた九州から息子の住む首都圏のサ高住に移り住んだ。身の回りのことはできていたが、自宅では何度か倒れており、高齢でもあったので、これ以上一人暮らしを続けるのは難しいと息子が判断し近くに呼び寄せた。この経緯を聞くと、サ高住よりは介護付き有料老人ホームなどの方が合っているのではないかと考えられるところだ。ところが、船田さんは同じような状況の入居者や職員とのコミュニケーションが刺激になったのか、見違えるように元気になったという。息子は「自分でできる簡単な掃除などは自分でやる、というサ高住の環境が奏功したようです。サ高住を選んで正解でした」と満足している。

ちなみにサ高住の料金は、基本的には敷金2か月分と家賃だ。家賃は数万円から数十万円、加えて管理費、食事代などのサービス利用料がかかる。さらに介護が必要になれば、介護費用もかかってくる。前払い金や礼金、更新料は不要なので、住み替えは比較的容易だと言えるだろう。

介護型のサ高住もある

その一方で、「介護型」のサ高住も少ないながら存在している。「特定施設入居者生活介護」の指定を受けているサ高住で、介護付き有料老人ホームなどと同じように、食事や入浴、排せつなど日常生活を送る上で必要な介護サービスを受けることができるので、介護度が高くなっても生活し続けることができる。ただし一般的なサ高住と比べると料金は高く設定されている。

この「特定施設入居者生活介護」の指定を受けた「介護型」サ高住以外にも、“介護型”を標ぼうするサ高住も出てきている。要介護度が重くなっても受け入れ可能などとうたう施設だ。ただこうした施設の場合、介護サービスの質や内容は施設によって差があるのが現状だ。外部の介護サービス事業所から介護サービスを受けることになるのは一般的なサ高住と同様なので、“介護型”を標ぼうするサ高住を検討する際は介護サービスの内容や料金についてよく確認することが必要だ。

サ高住は賃貸住宅ということもあり、有料老人ホームのように体験入居はできないことが多いが、体験入居ができる施設もある。体験入居ができるようなら、ぜひ一度体験してみることをお勧めしたい。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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