京都は不思議な街だ。日本料理の源流ともされる京料理を擁し、伝統と格式は揺らぐことはない。しかし、街を歩けば、韓国料理、スペインバル、イタリアン、フレンチ、そしてそれらの融合料理とあらゆるものがありどれも驚くほど美味しい。融通無碍な食への姿勢もまた、底知れぬ古都の懐の一端なのだ。

自流の現代広東料理で新たな時代を切り開く

廣澤|中京区不動町

「冬瓜のスープ」。くりぬいた冬瓜にスープを入れ、そのまま蒸し上げた熱々の一品。冬瓜の身もとろりと味わい深い。グラスワインのシャルドネ2000円。
四万十ポークをハチミツや醤(ひしお)など調味料を合わせたタレに漬け込み焼き上げた「叉焼(チャーシュー)」。エシャロットやマスタードを合わせた味噌とともに。
「鮑と八代海苔の煮込み炒飯」。玉子炒飯と炒めた鮑、八代海苔の餡を合わせて煮込んだ。コース2万5000円(サービス料込)。

「これまで学んだ中華料理に和食やフレンチの要素も加え、軽やかな広東料理を生み出します」と話すのは、店主の廣澤将也さん(34歳)。中華の名店『赤坂璃宮』に勤めた後、京都祇園『蓮香』、大阪『蓮心』など現代中華の料理長として腕をふるい、今年3月、満を持して京都に自店を開業した。

独立の地に選んだのは、京都の町中。京都らしい路地を進むと和の植栽が美しい町家が現れる。客席中央のカウンターに座ると全面ガラスの窓から、風情ある四季の庭を眺められ、料理とともに自然の移ろいを楽しめる。

月替わりの料理にも、その季節感は盛り込まれる。冬瓜に金華ハムと鶏のスープをはり、アコウなど秋の食材を忍ばせる。紅芯大根やスナップエンドウが華やかに彩りを添える。

客前で焼く叉焼や、鮑と八代海苔の煮込み炒飯など、創作性のある料理が次々に登場する。味わいの斬新さや器と盛り付けの妙に魅せられるうち、コースの12品を食べ尽くしている。

焼きたての叉焼を客前で切り分けて皿に盛る廣澤さん。臨場感ある調理もカウンターに座る楽しみなのだ。

廣澤

四条烏丸からもすぐ近くの路地奥の町家を改装して店舗にした。

京都市中京区不動町183
電話:075・200・9783
営業時間:17時30分~、20時30分~(一斉スタート) 
定休日:日曜、祝日
交通:地下鉄烏丸線四条駅、阪急電鉄烏丸駅から徒歩約9分

※この記事は『サライ』本誌2023年10月号より転載しました。(取材・文/中井シノブ 撮影/伊藤 信)

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