取材・文/坂口鈴香

himawariinさんによる写真ACからの写真

井波千明さん(仮名・55)の義父母は、5年前相次いで認知症と診断された。訪問介護サービスを利用しながら二人暮らしを続けていたが、義母が硬膜下血腫の手術を受けたことで、これ以上二人暮らしを続けるのは無理だと判断。井波さん家の近くで施設を探すことになった。

【2】はこちら

義父母にはあなたの近くに来てもらうしかない

井波さんは、義母の実の娘に間違われるくらい仲が良い。義兄たちが遠くに住んでいることもあり、早くから義父母の面倒をみるのは自分しかいないと思っていたとはいえ、義父母の自宅近くで施設を探すという方法もあったはずだ。

施設に入居するという形ではあるが、それでも井波さん家の近くに呼び寄せるということに抵抗はなかったのか。

「私には障害のある息子がいるんです。今は福祉作業所に通っていて、私が毎日送迎をしています。まだ義父母が二人暮らしをしていて、私が毎月様子を見に通っていたころ、介護福祉士の友人から、『あなたの家や親戚の状況を考えると、あなたが義父母の面倒をみるしかないと思う。となると、障害のある息子さんもいるんだから、義父母にあなたの近くに来てもらうしかないと思う。ご主人や義兄さんたちはなかなか踏ん切りがつかないかもしれないだろうけど』と言われました。確かに、頻繁に義父母のところに通うのは私もきついなと」

その友人が言ったように、井波さんの夫は2人を実家で過ごさせてやりたかったようだった。硬膜下血腫のために義母の状態がかなり悪化したときでさえも、まだ「地域の介護サービスでなんとかならないのかな」と言っていたほどだったという。

三男なのになぜ自分が?

しかし、いっそう義母の症状が進み、硬膜下血腫が判明。入院・手術が決まったとき、井波さんは夫と話し合った。

そしてこれ以上2人で暮らすのは無理だという結論に至ったものの、夫は両親を自分たち家族の近くに呼ぶことにすぐには納得しなかった。

「『三男なのになぜ自分が?』という迷いもあったのかもしれません。それでも私たちが一番近くにいるのだから仕方ないとあきらめたんでしょう。それから2人の義兄に相談しました。長兄は長男という責任も感じていたらしく、我が家近くの施設を探して入れることに賛成してくれただけでなく、『もし義父母が抵抗したら、自分が説得するから、施設探しはよろしく頼む』とまで言ってくれたので、頼もしかったのを覚えています」

そして見つかったのが、現在義父母が入っているサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)だった。井波さん夫婦がサ高住を見学したあと、義母が体験入居するときには義兄2人も来てくれて、皆で施設の様子を見たという。

サ高住に入るのに、長兄が義父母を説得する必要はなかった。義母は硬膜下血腫の手術のあとだったため、まだ少しボーっとしていたせいかもしれないと井波さんは考えている。

義母の手術の間、老人保健施設にショートステイしていた義父も、しばらく遅れてサ高住に移った。

「体験入居のような形で入って、そのまま入居してもらいました。義父も私たちには何も言うことはありませんでしたが、スタッフには『なぜこんなところにいるんだ。家に帰りたい』と言い張ったらしいです」

しかし、義父は井波さんに「家に帰りたい」と訴えることはない。

井波さんが面会に行くと、いつも他愛もない話をして、ひとりきり話をしたあと、井波さんが帰ろうとすると「来てくれてありがとう。また来てね」と言ってくれる。

「だから、義父のところに行くのは、私の癒しになっています」

【4】に続きます

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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