文/石川真禧照(自動車生活探険家)
「大きい車=高級車」という時代は、遠くなりにけり。起伏とカーブが多い欧州が鍛えた2シリーズの最新型は、日本の道でも走りやすいコンパクトなセダン。驚きの走行性能と上質感を体験できる。
独自の最先端技術を搭載した大きすぎない高級車
近年、流行しているSUV(多目的スポーツ車)や、客室と荷室が一体となった2ボックスハッチバック車は、室内が広く便利ではある。だが、車の基本は、エンジン部、客室、荷室が、しっかりと区分された4ドアセダンだ。
しかし、日本の道で運転しやすいコンパクトクラス(全長4.5~4.6m、全幅1.8m以下)のセダンは意外に少ない。国産車では日産/シルフィ、ホンダ/シビックセダン、マツダ/3セダン、スバル/S4、レクサス/ISなどがあるが、こうしたコンパクトセダンの中で本物の上級感を持つ車は皆無といっても過言ではない。
コンパクトで高級感のあるセダンはないものか。そこに登場したのが、BMWの「2シリーズ グランクーペ」である。2019年10月に日本で発表され、今年4月に、ようやく納車がはじまった。
屋根が低く、車体後部にかけて下がり曲線を描く形状のスポーティな車を「クーペ」と呼ぶ。クーペといえば一般的には2ドア仕様だが、1990年代にはクーペ的な形状を持つ4ドアセダンとしてトヨタ/カリーナEDや日産/プレセアが登場し、最近ではメルセデス・ベンツ/CLSクーペ(4ドア)が人気だ。
前輪駆動と4輪駆動を展開
BMWの2シリーズ グランクーペには、2種類のエンジン、2種類の駆動方式がある。直列3気筒1.5Lガソリンエンジンを搭載するのは、前輪駆動の「218i」。3気筒1.5Lエンジンは軽快感があり、前輪駆動特有の車重の軽さと相まり、小気味よい走行性能を楽しませてくれる。
直列4気筒2Lガソリンエンジンは4輪駆動で、「M 235i」と名付けられている。馬力もトルクも高数値で、加速性能をはじめ、走行性能の安定感もひときわ高い。
いずれのエンジンも排気量から想定されるイメージを超え、信じられない走りを体験させてくれる。
車線の逸脱や制限速度超過を抑制する機能など、最新の運転支援機能を搭載しているが、なかでも注目は「後退時ステアリング・アシスト機能」だ。直近50mの軌跡を記憶し、バックするときにその軌跡どおりにハンドル操作してくれるのである。道を間違えてしまい後退しなければならないときや、狭い駐車スペースで重宝する。
また、声で空調やカーナビの操作ができるAI音声会話機能を持つ。起動の際の呼びかけは自由に設定でき、「ハローBMW」でも「ちょいと御免」でもよい。タイヤの空気圧も音声で確認でき、シートヒーターの好みの温度などをAIが学習。長く乗り続けるほどに車が運転者になじんでくる。
前後がほぼ50:50の重量配分で設計されており、高速コーナーや山道もなめらかに走り抜ける。流行に与しない伝統的な車形だからこそ味わえる運転の楽しさがある。世界屈指の上質車である。
BMW/M 235i Xドライブ グランクーペ
全長×全幅×全高:4540×1800×1430mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1590㎏
エンジン:直列4気筒DOHC、1998cc
最高出力:306PS/5000rpm
最大トルク:45.9㎏-m/1750〜4500rpm
駆動方式:4輪駆動
燃料消費率:11.9㎞/L(WLTCモード)
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
ミッション形式:8速AT
サスペンション:前:ストラット式 後:マルチリンク式
ブレーキ形式:前後ともベンチレーテッドディスク
乗車定員:5名
車両価格665万円(税込み)
問い合わせ:カスタマーインタラクションセンター 0120・269・437
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
撮影/佐藤靖彦
※この記事は『サライ』本誌2020年9月号より転載しました。