『麒麟がくる』は織田信長(演・染谷将太)が桶狭間の戦いに勝利したところまで放送されている。後半戦、いよいよ信長のさらなる躍進が始まる。

『麒麟がくる』の影響で、後半戦に登場する室町幕府の最後の将軍・足利義昭への注目が集まっている。明智光秀との深い因縁、本能寺の変との関係など、『麒麟がくる』で義昭がどう描かれるかは、興味が尽きない。かつて歴史ファンを虜にし、全盛期には10万部を超える発行部数を誇った『歴史読本』(2015年休刊)元編集者で、歴史書籍編集プロダクション「三猿舎」代表を務める安田清人氏がリポートする。

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足利義昭について、最近、新たな「発見」があった。室町幕府15代将軍の座に着いた足利義昭に対し、その後ろ盾となった織田信長は、永禄12年(1569)2月から、将軍御座所である「公方御構」の建設を開始する。

きっかけとなったのは、ひと月前の正月、信長がいったん本拠・岐阜城に帰還した隙をねらい、三好三人衆(三好長逸・三好宗渭・岩成友通)が義昭のいる京都本圀寺を襲撃した事件だ。このとき、尾張衆や美濃衆といった織田軍の守備兵に交じり、明智光秀も本圀寺を守って奮闘。顕著な働きを見せたという。

このときの経験から、信長は将軍義昭を守る防御施設の必要性を感じたのだろう。城の普請(工事)は、ときに信長自身が陣頭指揮をとり、わずか70日ばかりの突貫工事で完成。義昭が入城したとされている。

現在、この公方御構は旧二条城と呼ばれている。のちに豊臣秀吉、徳川家康も二条城を造っているが、それとは位置が異なる。この旧二条城=公方御構跡の発掘調査が、今年、令和2年4月から5月にかけて行なわれ、堀の跡が確認されたのだ。

発掘された信長が将軍足利義昭のために建造した公方御構(通称旧二条城)の内堀遺構。 写真/京都市文化財保護課提供

この城は、市中に造成された広大な城だったが、義昭と信長が対立するようになると破却されてしまう。しかも、その資材は安土城に運び込まれてしまったため、地上のその痕跡はまったく確認できない状態になっていた。

城跡のほとんどは市街地化しているので、建築工事などにともなう行政発掘などの機会以外には、発掘調査はなかなか難しい。今回の調査は、城の中心部である「内郭」の北端推定地で行われ、その範囲は約80平方メートルに及んだ。

興味深いことに、今回みつかった「内郭」を囲う堀は、南北に走る室町通り(室町小路)という、当時の京都におけるメインストリートを横切り、西側にはみ出すかたちで掘られていたことがわかった。これは、主要な建物がある「内郭」の一部が外に突き出している「出隅」という構造ではないかと推定されている。

こうした「出隅」は、大規模な場合は隅櫓などの建物を建てていたケースがあり、ここに高層建物があった可能性もあるという。

この旧二条城の完成から2年後の元亀2年(1571)の記録(公卿清原国賢の日記『国賢卿記』)には、この城に「櫓」や「天主(守)」があったことが記録されている。安土城に先駆けて、信長が「天主」の造営に携わった初めての例だとの指摘もある。

この出隅に建てられていたのが、「天主」であるかどうかはわからないが、室町通りを見下ろす建物を設けることで、将軍の権威を示す意図があったのではないだろうか。

応仁の乱によって荒廃した京都は、上京と下京とに分離し、両市街地は室町通りによって結ばれていた。旧二条城は、ちょうどその中間地点に位置している。メインストリートである室町通りをまたぎ、上京と下京ににらみを利かせる位置にあったと見てもいいだろう。

義昭は、信長にとってはあくまでも「傀儡」だったかもしれない。しかし、少なくともまだ将軍の座に着けて間もない「蜜月」の時期には、新将軍の権威を京都の人々に見せつける意図を、信長は明確に持っていたのではないだろうか。

今回の発掘調査によって、そんな信長の「真意」と、義昭との関係の一端を見ることができたように思う。

京都市街に眠っていた公方御構(旧二条城)の内濠の石垣遺構。

安田清人/1968年、福島県生まれ。明治大学文学部史学地理学科で日本中世史を専攻。月刊『歴史読本』(新人物往来社)などの編集に携わり、現在は「三猿舎」代表。歴史関連編集・執筆・監修などを手掛けている。

 

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