文・写真/鈴木拓也
鎌倉の長谷寺や大仏のほど近くに店舗を構える『鎌倉清雅堂』は、「鎚起」(ついき)と呼ばれる手法で作られたうつわの数々を扱っている。陶器やガラスのうつわとはまったく異なる素材・質感は、本物が分かる大人の心をとらえ、全国から注文が来る。
鎚起とは、「鎚で打ち起こす」金属工芸技術の一種。金・銀・銅・錫といった金属の板を、大小の鎚やタガネで打ち延ばしたり、打ち縮めたり、焼いたり、叩いたりしながら成形し、最後に装飾や色をつけて、ひとつのうつわへと仕上げてゆくもの。
非常に多くの工程を経て作られ、繊細な手作業となるため、熟練を要し、一級のプロダクトを生み出せる職人は、日本でも数えるほどしかいない。その一人が、新潟県西蒲原郡弥彦村に『鎚起工房 清雅堂』を構える西片正さんである。
西片さんは、多年にわたり鎚起製品を日々作り出している大ベテラン。こちらの『鎌倉清雅堂』は、新潟の工房で製作された作品を販売する、アンテナショップという位置づけにあたる。
『鎌倉清雅堂』の1階と2階には、大小様々な鎚起製品が陳列されている。店の主人はこう語る。
「鎌倉に店舗を構えて約20年になります。金属のうつわは使い手とともに過ごした時間の分だけ、風合いを増していきます。
鎌倉は、大仏もそうですが、神社仏閣や古い建物などに金属が、時を経て今も息づいている場所。その地で、伝統的な金属工芸の魅力や暮らしのなかで使う愉しさを伝えていきたいと願っております。
そのため店内デイスプレイは、部屋をイメージした家具などを配置し、生活のシーンとつながるように心がけております」
鎚起には、他にはない美しさがあるが、ただ飾って眺めるだけのアート作品ではない。食卓に彩りを与えるワンポイントとして、どしどし使ってほしいという。
売れ筋のひとつ、錫製のぐい呑みとチロリトックリもそうで、光沢のあざやかさは、いつもの酒を何倍にもひきたてる。また、錫の酒器には、イオン効果で酒をまろやかに美味しくするという。
酒器・食器だけでなく、花器のラインナップも取り揃えている。例えば「雲の花入 銀色」という花器は、庭で目立たず咲いている花を挿しておくだけで、風雅な「華」へと生まれ変わらせるような造形の妙がある。
鎚起には、丈夫で長持ち、使いこむほどに趣きのある艶が生まれるという長所もある。落下による破損などがあっても、再生メンテナンスができる。まさに一生ものだ。
匠の技が生きる「鎚起」(ついき)の器の数々に出会える、希少な店である。
『鎌倉清雅堂』
■住所/鎌倉市長谷2-5-39
■電話/0467-23-6121
■営業時間/10:00~18:00
■定休日/水曜
文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。