日常の時を刻む腕時計。人生後半の相棒には一流品を選びたい。世界に誇る技術のみならず、伝統工芸を取り入れた日本の腕時計は、身に着ければ愛情もわく宝物となるだろう。
季節の情景を土佐和紙の文字板で体現した“高精度光発電腕時計”
「時計は輸入品」が主流であった時代に、国産の時計を作りたい。そんな想いから、シチズン時計が前身である尚工舎時計研究所を創立したのは1918年のこと。悲願の独自設計による懐中時計が完成したのは1924年。当時の東京市長・後藤新平伯爵により、永く広く市民に愛される時計になるようにと「CITIZEN」(市民)と命名され、現社名の由来となった。
このように時計を研究するところから始まったシチズンの歴史には、斬新な開発の記録がいくつも綴られている。中でも特筆すべきは、腕時計のエネルギー源として太陽光に着目し、「光発電時計」の開発をいち早くスタートさせたこと。「電池交換の必要がなく、正確に時を刻み続ける時計があったら、人々から愛されるはず」という技術者の声から始まった研究だった。
世界初のアナログ式太陽電池時計『クリストロン ソーラーセル』(上写真)を発売したのは、電池を動力として動くクオーツ時計が普及しつつあった1976年のこと。光発電は太陽光だけでなく、蛍光灯などの室内の光でも電気に変えて時計を動かすことを実現。さらに、余った電気を蓄えることもできる。廃棄電池の削減にも繋がり、環境にも優しいその技術は「エコ・ドライブ」と名付けられ、現在もシチズンの腕時計の礎となっている。
太陽の下で楽しんでほしい
「どんな時も“今をスタート”と考え、絶えず、より良くしていこうという共通の意識が開発の現場にはあります」と語るのは、シチズンの旗艦ブランド『ザ・シチズン』のデザイナー三村章太さん(37歳)。同ブランドから発表された限定モデル「年差±5秒エコ・ドライブ アイコニックネイチャーコレクション 綾錦」(写真一番上)からも、絶えず改良を重ねていくシチズンの姿勢を見てとることができる。
誰の目にも印象的なのは、木漏れ日を思わせるようなグラデーションの彩りが美しい文字板。漉きこまれた繊維が、雲の中を翔ける龍のような模様をもつ土佐和紙「雲龍紙」を文字板に採用している。
「時計の本質である精度には、すでに絶対的な自信がある。その高い精度をバックに、デザインを前面に押し出そうと考えました」と商品企画部の吉川茂樹さん(58歳)。
デザインのコンセプトは、和紙を用いて日本の情景の美しさを表現しようというものだった。そのために高知の山間にある和紙製造の現場へ足を運び、腕時計用に楮の繊維の配合を調整した特別な和紙を開発してもらった。それは、太陽光を効率よく透過させることができる薄く美しい和紙として完成した。
太陽の下で見ると味わい深さが一層際立つ和紙の文字板。腕に着けていれば心に豊かさをもたらす。そんな愛用品になるに違いない。
※この記事は『サライ』本誌2022年7月号より転載しました。(取材・文/堀けいこ 撮影/戸田嘉昭(パイルドライバー))