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「自分を変えない」というインタープレイ【ジャズを聴く技術 〜ジャズ「プロ・リスナー」への道39】

文/池上信次
「編成で聴くジャズ」の今回はデュオの4回目。「ヴォーカル+ピアノ」のデュオです。ピアノは万能楽器ゆえ、さまざまなアプローチが可能です。しかし、何でもできるということは、逆に確固とした考えがなければありきたりのものになりがちです。ここでは同じ編成でも、まるで違うアプローチの「声+ピアノ」を3組紹介します。

(1)ジューン・クリスティ&スタン・ケントン『デュエット』(キャピトル)
ジューン・クリスティ&スタン・ケントン『デュエット』

ジューン・クリスティ&スタン・ケントン『デュエット』

演奏:ジューン・クリスティ(ヴォーカル)、スタン・ケントン(ピアノ)
録音:1955年5月7、9、19日

ピアニスト、作編曲家のスタン・ケントン(1911〜79)は、1940年代に自身のオーケストラを立ち上げ、50年代には「プログレッシヴ・ジャズ」と呼ばれるほどの革新的な編成と(ケントンとピート・ルゴロによる)編曲でビッグ・バンド・シーンをリードしました。このケントン楽団を有名にしたのが、ヴォーカルのジューン・クリスティ。ジューンは45年から49年までケントン・オーケストラのバンド・シンガー(専属歌手)として活躍。いくつものミリオン・ヒットを飛ばし、バンドは(ジャズとして先端にいながらも)広い人気を得たのでした。

このアルバムが作られたのは、ジューンが独り立ちした約5年後の再会セッション。かつてのボス、ケントンのピアノはここでは「伴奏」に徹しています。ソロはありません。前回、「ジャズのデュオは、片方が伴奏にならないことがジャズたるところ」というふうに書きました。では、これはどうなのか。ケントンはビッグ・バンド・リーダー、作編曲家としての活動が主だったため、ピアノ演奏のアルバムを作る事自体が珍しいのですが、なぜあえてピアノで、それもひとりでジューンと演奏をしたのでしょうか。そう、ピアノは「小さなオーケストラ」なのです。ケントンは「個」で勝負するジャズとしてではなく、ここでは「ひとりオーケストラ」を試みたのではないでしょうか。これは1+1のデュオではなく、ジューン+ケントン・オーケストラのミニマムな再現なのです。さらりと聴けば地味ですが、じつはこれはケントンの先進性の表われでもあるのですね。

(2)『トニー・ベネット&ビル・エヴァンス』(ファンタジー)
『トニー・ベネット&ビル・エヴァンス』

『トニー・ベネット&ビル・エヴァンス』

演奏:トニー・ベネット(ヴォーカル)、ビル・エヴァンス(ピアノ)
録音:1975年6月10〜13日

トニー・ベネットはポップスのヒット曲もたくさんあることからもわかるように、スキャットをバリバリやるような「ジャズの人」ではありません。そういうスタイルのヴォーカリストが、「インタープレイ」の代名詞であるエヴァンスとデュオで作ったのがこのアルバム。エヴァンスとのデュオとなれば、前に紹介した『アンダーカレント』のように、丁々発止のやりとりを期待してしまうところですが、ここにはまったくありません。エヴァンスはいつものエヴァンス。ベネットはいつものベネットなのです。音楽的イメージもふたりはちょっと違いますが、そのイメージどおりに違ったまま。エヴァンスは「伴奏」している感じがありませんし、ベネットは(ジャズ色をわざと排しているかのように)朗々と歌い上げています。当時すでに「大物」のふたりですから、お互い相手に遠慮していない(遠慮したら負け?)、ということなのでしょうか。でもこの遠慮のなさが、結果的になかなかいい緊張感を醸しだしているのです。ともに個性が強いだけに、どちらかに寄り添えばどちらかのアルバムになってしまうことをわかっていたのかもしれません。

この後ふたりはお互いによい感想を述べ、もう1枚デュオ・アルバムを作りました。当時エヴァンスのトリオは若いベースとドラムス、ベネットは「歌伴」ピアニストと活動していました。もしかすると、ふたりとも「遠慮しない相手」と演奏したかったのかも。

(3)チック・コリア&ボビー・マクファーリン『スペイン(原題:Play)』(ブルーノート)
チック・コリア&ボビー・マクファーリン『スペイン』

チック・コリア&ボビー・マクファーリン『スペイン』

演奏:ボビー・マクファーリン(ヴォーカル)、チック・コリア(ピアノ)
録音:1990年6月23〜27日

ヴォーカルは「歌詞を歌う」だけではありません。ボビー・マクファーリンは、比喩ではなくほんとうに「声」を楽器にしてしまいました。歌詞や言葉はヴォーカリストだけがもつ表現要素ですから、見方を変えれば、もっとも強力な武器をあえて使わないということになるわけですが、ここまで徹底していればむしろいらないと思わせてくれるほど。

『プレイ』は、ピアノのチック・コリアとのデュオでのライヴ・ステージを収録したものですが、ヴォーカル+ピアノというよりも、前回までに紹介した異楽器デュオの範疇といえる演奏です。マクファーリンは全編スキャットなのですが、どの曲でも、ほかにはどこにもない「マクファーリンの声」という「楽器」で、強力なアドリブ・ソロが展開されます。さらにそれに加えて、体を叩きながらベース・ラインまで「歌う」のです。コリアのソロの間は、ベースとパーカッションがプッシュしまくる、いわばピアノ・トリオ状態なんですね。「枯葉」では少しだけ歌詞を歌いますが、それは「ヴォーカル」をパロディにして笑いをとるシーン。じつに挑戦的ともいえるでしょう。「スペイン」では弦楽器ふうだったり管楽器ふうだったりと自在に変化する「音」を聴かせ、「ラウンド・ミッドナイト」では、ミュート・トランペットふうの「音」で「プレイ」。「ブルー・ボッサ」では、完全にベースになりきってしまっている(アップテンポの4ビート・ベース・ランニングにびっくり)という、まさに驚異の声。それを最大限に楽しむには、デュオは最高のフォーマットなのですね。

※本稿では『 』はアルバム・タイトル、そのあとに続く( )はレーベルを示します。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。近年携わった雑誌・書籍は、『後藤雅洋監修/隔週刊CDつきマガジン「ジャズ100年」シリーズ』(小学館)、『村井康司著/あなたの聴き方を変えるジャズ史』、『小川隆夫著/ジャズ超名盤研究2』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)、『チャーリー・パーカー〜モダン・ジャズの創造主』(河出書房新社ムック)など。

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