文/鈴木拓也
一説には「100万人はいる」とされる日本のバードウォッチング人口。言われてみれば、河川敷や公園で、双眼鏡を覗いている人をよく見かけるようになった。
高価な撮影機材が必要といった、バードウォッチングの敷居の高いイメージはひと昔前の話。今は、ちょっとした自然のある近場へ軽装で出かける、カジュアルなバードウォッチングがはやっている。日本野鳥の会やSNSを通じた初心者向けの集まりも充実しており、様々なガイドブックも書店に並んでいる。
そうしたガイドブックの中でもお役立ちなのが、11月刊行の『バードウォッチング&野鳥撮影スキルアップのコツ115 鳥説』(♪鳥くん/主婦の友社)。著者の“♪鳥くん”(本名は永井真人)は、日本でただ1人のプロバードウォッチャーで、1年の半分以上を野鳥観察の旅にあてるという、この道の第一人者。
本書は、類書とはまた異なった視点の、初心者も実践できるテクニックやコツが満載。幾つか紹介してみよう。
■スコープにすぐ鳥を入れるコツ
特に海上のように近くに目標物がない場合、スコープやカメラのファインダーに鳥の姿を入れるのに苦労しがち。
♪鳥くんのアドバイスは、「いつも同じ高さ、姿勢で入れる癖をつける」。
これだけで、鳥をスコープに入れる感覚を覚えられるという。
♪鳥くん自身は、身体を機材に対してまっすぐ向け、直立姿勢でレンズやファインダーが目の高さになるようにしているという。機材をより低い位置で構えるときも、「足を広げたり座ったりして」レンズやファインダーが目の高さになるように調整。
これを習慣化すれば、すぐに鳥を入れられるそうだ。
■鳥に近づくテクニック
鳥の警戒心をあおることなく近づけるかどうかは、バードウォッチングの大事なスキルの1つ。
本書でも、幾つかのテクニックが載っている。例えば、「さえずっているときこそ、近づくチャンス」と述べてあるのは、さえずり中の鳥は警戒心が緩むから。
また、「絶対におすすめのシンプル技」として取り上げられているのが、「しゃがむ」。これだけでも、立って近づく場合に比べ、鳥に近づける距離は倍になるという。
ついでに気をつけたいのは、しゃがんでバードウォッチングをしている人に話しかけようと、立ったまま急速接近すること。鳥だけでなく、その人のひんしゅくも買うことになるのでNGだ。
そして、「究極の技!」というのが「半眼で見る」。田畑に大きな目を模した鳥よけがあることからわかるように、鳥が気にするのは生き物の目。なので、薄目にするか、帽子のつばで目を隠しておくのは、鳥にうまく接近するテクニックになる。
■寒さ対策はレイヤリングで万全に
冬のバードウォッチングは、寒さが辛いという問題があるが、♪鳥くんは「防寒具をしっかり着ていない場合が多く見受けられます」と指摘する。
♪鳥くんがすすめる寒さ対策は、次のようなものだ。
「上半身は、体にぴったりフィットしたインナーレイヤー(発熱・保温機能つきの下着など)を着て、(必要があれば次にシャツなどを着て)その上にミドルレイヤーの毛糸のセーターやフリース、またはネルシャツを着て、最後にアウターレイヤーとしてダウンを着ればばっちりです」(本書11pより)
下半身も同じく、インナーを2枚重ねにしてから防寒用のズボンを履き、靴下も重ね履きをしてハイカットで防寒性の高い靴を履く。頭部は、耳まで隠れる毛糸の帽子にネックウォーマーを着ける。
さらに、「温かい飲料やスープ、汁ものなどの食事」を事前に摂っておき、現地でも保温力のある水筒に入れたホットドリングを飲めるようにしておけば万全とも。
■巣から落ちた雛は拾わない
何かの拍子に巣から落ちて道ばたにいる雛を「拾ってはいけない」のは、経験のあるバーダーの間では常識。
持ち帰って保護したところで、雛に採食方法や飛び方は教えられず、結局死なせてしまうだけだと、♪鳥くんは説く。
もし、そんな雛を見つけた場合の正解は「見つけた場所近くのできるだけ安全な場所、たとえば葉の多い枝上や木の幹の上方の横枝に置く。あるいは、できれば巣を探して巣に戻す」。つまり、親鳥のもとに戻れるようにし、それが難しい場合はそのままにしておく。雛をずっと見ていると、親鳥が近づけないので、その点にも注意したい。
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以上、本書の第1章「バーダーのためのコツ<基本編>」から、すぐに実践できるコツをピックアップした。残りの章では、船上バードウォッチング、野鳥の習性、撮影テクニックなど、初心者から一歩踏み出す内容が盛りだくさん。バードウォッチングはこれからという方から多少経験を積んでいる方まで、参考になる1冊に仕上がっている。
【今日の趣味を充実させる1冊】
『バードウォッチング&野鳥撮影スキルアップのコツ115 鳥説』
http://shufunotomo.hondana.jp/book/b376133.html
(♪鳥くん著、本体1,480円+税、主婦の友社)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。