文/柿川鮎子
雀やカラス、ハト以外の何か違う野鳥を見つけた時、何という名前の野鳥なのか、調べたくなりますね。一番簡単なのはネットを使った野鳥名検索ですが、単に野鳥と入力するだけではたくさんヒットしてしまい、どれだったのかわかりません。
その点、印刷された本だと、パラパラと全体をめくって似たような野鳥を探すことができるので、名前を知るには便利なのです。手元に置いて何回もページをめくっていると愛着がわいてくる野鳥図鑑。使いこなしているうちに、もっと良い図鑑が欲しくなって、コレクションしたくなる人も多いはず。
今回ご紹介したいのは、愛鳥家もそうでない人にも楽しめる野鳥のイラスト図鑑です。日本では実に30年ぶりとなるイラスト図鑑です。
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野鳥の図鑑は大きくわけて写真図鑑とイラスト図鑑の2つにわけられます。日本では写真を使った図鑑が多いのですが、海外ではイラスト図鑑を好んで使う人が多い様です。
世界で最も権威のある野鳥図鑑と言われている『ILLUSTRATED CHECKLIST OF THE BIRDS OF THE WIRLD』(HBW and Bird Life International)も、イラストで紹介されています。
そんな中、日本で30年ぶりに野鳥のイラスト図鑑が発刊されました。イラストレーター水谷高英氏が描く野鳥のイラストをふんだんに使った『フィールド図鑑 日本の野鳥』(叶内拓哉・解説、文一総合出版)です。
日本で見ることができる野鳥、657種類をすべて水谷氏が書き下ろした労作で、本の企画から完成まで約10年かかったということです。バードウオッチャーの間では早くも話題の一冊となっています。
一羽ずつ野鳥の解説を執筆した叶内拓哉氏は、『サライ』本誌の巻頭連載「鳥の唄を聴け」でもおなじみの、日本を代表する野鳥写真家です。その叶内さんにお話を伺ったところ、「いやー、たいへんでしたよ」とのお言葉が。完成までの苦労を振り返っていただきました。
「これまでにも野鳥のイラスト図鑑はありましたが、イラストは大学の先生が描いたものだったりして、プロの野鳥のイラストレーターとはリアルさが全然違うんです。絵を専門にしているわけではないので、当たり前なんですね。その点、水谷先生は鳥のイラストでは第一人者で、ずっと実物に近く、質の高いイラスト作品になっているのです。
先生の下絵をもらって、私が一つずつチェックを入れたのですが、657鳥種、延々と何回も直してもらって、水谷先生には本当に大変だったと思います。それだけに、どうすごいのか、同じ野鳥で見比べてみてほしいですね。これまでのイラスト図鑑とはクオリティが全然違いますよ」(叶内氏)
イラストにすると、写真では見にくい野鳥の特徴が明らかにわかります。特に上から太陽の光があたる頭部の色などは写真では見えにくくなりますが、イラストはその点、わかりやすく描くことができるので、見分けるのに便利です。
さらに、斑とよぶ羽の模様の入り方も、写真以上にはっきり表せるので特徴がわかりやすいのです。
「今回のイラスト図鑑では、本文の中にその野鳥の特徴を表すイラストが入っています。たとえばキジのディスプレイとか、ヨシゴイとオオヨシゴイ・リュウキュウヨシゴイの瞳の形などは読み物としても面白いでしょう。
また、細かな部分ですが、野鳥がとまっている枝とか岩とか、水鳥だったら水辺の風景などがきちんとモノクロで描かれているので、どんな環境を好んで生活しているのかがわかります。でも、モノクロなので野鳥自体が強調されいて、じゃまにならず、鳥自体が見やすいのです」(叶内氏)
叶内さんが執筆した解説部分では、識別の参考になる野鳥の行動や、特に類似鳥との識別ポイントが明確にされているのも他の野鳥図鑑とは異なっています。
たとえば身近な野鳥のウグイスですが、一般的な図鑑では雌雄同色とだけ書かれていて、雌雄の差についてあまり踏み込んでいません。でもこの本では雌のイラストの隣に「雄に比べて嘴は短く、足は短めで細い」と、見分けについてもきちんと書かれていて、野鳥観察をより楽しくさせてくれます。
12月はクリスマスプレゼント用に図鑑や絵本の販売数が増える時期でもあります。野鳥趣味の人だけでなく、読み物としても楽しめる『フィールド図鑑 日本の野鳥』は、愛鳥家にはおすすめの一冊です。
【今日の一冊】
『フィールド図鑑 日本の野鳥』
(水谷高英イラストレーション、叶内拓哉著、本体3,800円+税、文一総合出版)
http://www.bun-ichi.co.jp//tabid/57/pdid/978-4-8299-8810-7/Default.aspx
文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。