文/柿川鮎子 写真/木村圭司

蓼食う虫も好き好きと言いますが、鳥も虫と同じように好き嫌いがあります。ほかの鳥は好まない木や実なのに、なぜかその鳥だけは大好物。そんな、お目当ての鳥のお気に入りを知れば、野鳥観察ができる可能性は高まります。

今回はそうした「ちょっと変わった好みをもつ野鳥と木」の不思議な共生についてご紹介しましょう。

この木にはモコモコした丸い緑の部分(ヤドリギ)がたくさん生えています。これを見て、冬、どんな野鳥がやってくるのかを想像することができます。

鳥に人気の木がわかれば野鳥観察の確率も高まる

一般的に人が食べて美味しい木の実は野鳥も大好きです。今の時期はビワにたかるオナガやヒヨドリ、ムクドリが親子連れでやってくる姿を見ることができます。ヤマグワの実も甘くて美味しく、ツグミ類が集団でごちそうにありついています。

こうした美味しい実をつける「野鳥レストラン」を知っておくと、たくさんの野鳥が観察できます。

ヤマグワの実は昔、お菓子代わりに子供たちが喜んで食べた実のひとつです。甘酸っぱい爽やかな味で、野鳥も大好き。観察していると入れ替わり野鳥がやってきます。

この「野鳥レストラン」は公園や街路樹にもこっそり存在します。多くの野鳥が好む木を「誘鳥木(ゆうちょうぼく)」と呼び、街路樹としても植樹されています。

誘鳥木には鳥が食べる実をつける木だけでなく、野鳥が巣作りしやすいなど、野鳥が休む隠れ場所として最適な木もあります。家庭で誘鳥木を植える場合は、鳥が好きな実がなる木と鳥が隠れることができる木を組み合わせるとより効果的です。

ヤドリギとレンジャクの不思議な共生関係

野鳥が大好きな木や実がある一方で、あまり好まれないものも存在します。例えば、街路樹でもよく見かけるヤマボウシの実や、寄生植物のヤドリギ、エゴノキなどは、身近な場所にたくさん生えているのに特定の鳥以外あまり食べに来ません。

野鳥が素通りしてしまう不人気ナンバーワンのヤドリギは、10月ごろに実をつけ、11月には淡黄色に熟します。サクラ、エノキ、シラカバなどに寄生し、日本全国どこでも見ることができます。実は甘いのに、野鳥には好まれません。餌が少なくなった真冬に仕方がなくヒヨドリやオナガ、カラスなどがついばむ程度で、他に食べるものがあれば見向きもされません。

見向きもされない理由は、ベタベタした食感にあると考えられています。ヤドリギの実はネバネバする粘着力のある部分に包まれています。人が食べても口の中にイガイガするような感じがいつまでも残る、やっかいな食感です。この粘着部分はヤドリギの繁殖に重要な部分で、種を寄生する木の枝に接着させて、春には芽を出し、繁殖します。

このヤドリギを食べるので有名な野鳥がレンジャクです。日本ではキレンジャクとヒレンジャクが観察できますが、レンジャクは他の野鳥があまり好まないヤドリギの実を美味しく食べてしまいます。レンジャクに食べられた実はフンと一緒に種となって枝に張り付き、繁殖地を拡大していくのです。

ヤドリギレストランで食事をした後は、水飲み場に直行して、トイレタイムとなります。写真は雪解け水を飲むヒレンジャクの群れ(撮影/唐沢孝一)。

このレンジャクとヤドリギについての詳細は、野鳥観察の達人・唐沢孝一さんの新刊書『目からウロコの自然観察』(中公新書)に掲載されています。それによると、レンジャクはヤドリギの実を食べた後、必ず水を飲んで排泄を促すとか。水がない冬場は雪を食べることもあるそうです。

ヤマガラのほぼ独占レストランとなるエゴノキ

日本の固有種で可愛らしい姿からファンも多いヤマガラ。会いたくなったらエゴノキを探すと運が良ければ観察することが可能です。実の部分に毒があり、ほかの野鳥はあまり食べないエゴノキですが、なぜかヤマガラだけは好んで食べます。

エゴノキは全国の街路樹や公園、ちょっとした林にもたくさん生えている木で、5月から6月にかけて、白く可憐な花を咲かせます。秋になる実はエグく、大変まずいのでエゴノキという名前がつけられたという説も。食べるのには適していませんが、すりつぶして食器洗いの洗浄剤として利用したり、川に入れて魚を浮かせて獲っていました。歌舞伎の「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」にも登場するほど、古くから日本人の身近で利用されてきました。

歌舞伎の先代萩では「こちの裏のちさの木に、雀が三疋(ひき)止まって、一羽の雀が云ふことにや」と歌われます。このちさの木とはエゴノキのこと。ヤマガラの「ほぼ独占レストラン」として大繁盛しています。

他の鳥が嫌う実を食べる鳥もいて、誰もがこの世に生きている価値をもっている。野鳥を観察していると、そうした普段忘れている大切なことを、思い出させてくれます。

鳥を探しながら歩く時に便利な唐沢孝一著『目からウロコの自然観察』(中公新書)。レンジャクとヤドリギのほか、メジロの盗蜜など、目からウロコがたくさん落ちるはず。

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)、編集協力『フクロウ式生活のとびら』(誠文堂新光社)ほか。

 

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