「庭園画」に描かれた庭園と現状の庭園とを比べてみる楽しみ

取材・文/田中昭三

「庭園画」とは、読んで字のごとく、日本庭園を描いた絵画のことをいう。江戸時代に京都と江戸を中心に発展し、大名や文人たちが精魂込めて造った庭園をいろいろな手法を駆使して描いたものである。

ちょうどいま、静岡県立美術館で『美しき庭園画の世界』が開催されている(~12月10日まで)。これまで「庭園画」を日本絵画の視点から取り上げた美術展はほとんどないことから、美術史界に一石を投じた展覧会といえる。

今回は同展で展観されている「庭園画」2点をとりあげ、被写体となった庭園の現状と比べながら観賞する面白さを紹介しよう。

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まずひとつ目は、京都府京田辺市にある「一休寺」の庭である。

正式には酬恩庵(しゅうおんあん)という。鎌倉時代、禅僧として活躍した大應国師(だいおうこくし)がこの地に妙勝寺を創建。その後荒廃したが、大應国師の法系を継ぐ一休宗純(いっきゅうそうじゅん、1394~1481)が再興し、開祖の恩に報いるという意味を込めて酬恩庵と命名。いまは通称・一休寺の名で親しまれている。

江戸時代の初め、方丈が再建され、その北庭に一休の生き方に共鳴した石川丈山(いしかわじょうざん、1583~1672)、松花堂昭乗(しょうかどうしょうじょう、1584~1639)、佐川田喜六(さがわだきろく、1579~1643)の3人が枯山水庭園を造ったとされる。丈山はいまの詩仙堂に隠棲した文人。昭乗は書家にして茶人。喜六は晩年酬恩庵の近くに住んだ武人にして連歌に秀でた文化人。

一休寺方丈北庭。中心に巨石を立て、その右に滝の石組がある。

この3人合作という伝承をもつ枯山水を描いたのが『酬恩庵庭園真景図巻』である。作者は原在明(はらざいめい、1778?~1844)という画家。京都の画家集団・原派を率いた原在中(はらざいちゅう)の次男である。在明は多くの古画を模写し、有職画(朝廷や武家の礼式などを画題とした絵)を得意とした。

『酬恩庵庭園真景図巻』より、方丈北庭の中心部。酬恩庵蔵

原在明が描いた庭園画と、庭の現状を比較すると、在明がいかに庭を忠実に描いたがよく分かる。

左手の石塔の位置はいまも昔も変わらない。実はこの庭は、京都の有名な大徳寺大仙院の枯山水を意識して造られている。それだけに庭石のひとつひとつに深い意味がある。在明はおそらくそのことを知ったうえで、この庭を描いたのではないか。

庭園のなかで一番変化するのは植栽(庭に植えられた植物)である。庭園画と写真を比べると、松の大きさや形状がすっかり変わっていることが分かる。苔地に群生するサツキは在明が描いたころはなかったかに違いない。さらに言えば、在明の「真景」から類推すると、本来いまの苔地は白砂だった可能性が高い。

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もうひとつの庭は、熊本市にある水前寺成趣園。熊本藩主細川家3代綱利(1643~1712)の世に造られた大名庭園である。池泉にはいまも阿蘇山の伏流水が湧き、水はいつ訪れても澄み切っている。庭のシンボルは一面芝でおおわれた富士山である。

水前寺成趣園。芝におおわれた築山(つきやま)が印象的。左端に富士山がそびえる。

この庭を描いたのが『水前寺庭中之図(すいぜんじていちゅうのず)』。幅96.7cmの大作で、作者は杉谷行直(すぎたにゆきなお)と内尾栄一(うちおえいいち)という熊本藩の絵師。

『水前寺庭中之図』。上は西から俯瞰した景観。奥が阿蘇の連山。下は東から見た景観。庭を中心にした雄大なパノラマが展開する。永青文庫蔵

本展を企画した学芸員・野田麻美さんの展覧会図録によれば、この庭園画の精緻な筆墨技法と鮮やかな彩色表現には一休寺を描いた原派の影響がみられるという。

感銘するのは、鳥のような視点で俯瞰的に描き、遥か彼方の阿蘇山や金峰山(きんぽうざん)などの山並みをも取り込んでいるところだ。実際の庭園を忠実に描いているが、こんな庭園風景は飛行機にでも乗らない限り目にすることはできない。江戸時代に発展した「庭園画」は、ついにこんな規模雄大な作品をも生み出したのである。

【開催概要】
『美しき庭園画の世界‐江戸絵画にみる現実の理想郷』
■会場:静岡県立美術館
■会期:開催中~12月10日(日)まで。
■電話:054-263-5755
■時間:10時~17時30分(入室は17時まで)
■休館日:月曜
■入館料:800円

【酬恩庵(一休寺)】
■所在地:京都府京田辺市薪里ノ内102
■アクセス:JR京田辺駅、近鉄京都線新田辺駅から徒歩約25分(タクシーで約5分)
■拝観料:一般500円
■拝観時間:9:00~17:00(宝物殿は9:30~16:30)
■問い合わせ:0774‐62‐0193

【水前寺成趣園】
■所在地:熊本市中央区水前寺公園8‐1
■アクセス:JR熊本駅から路面電車で約5分、水前寺公園下車徒歩約4分
■拝観料:高校生以上400円
■拝観時間:3月~10月=7:30~18:00、11月~2月=8:30~17:00(入園は閉園の30分前まで)
■問い合わせ:096‐383‐0074

取材・文/田中昭三
京都大学文学部卒。編集者を経てフリーに。日本の伝統文化の取材・執筆にあたる。『サライの「日本庭園」完全ガイド』(小学館)、『入江泰吉と歩く大和路仏像巡礼』(ウエッジ)、『江戸東京の庭園散歩』(JTBパブリッシング)ほか。

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