文/矢島裕紀彦
当たり前のことだが、ウイスキーの飲み方は人それぞれだし、年齢によっても変わってくるのかもしれない。
雑誌「文藝春秋」の元編集長で作家の永井龍男は、若い頃は生(ストレート)で飲んだし、それが一番うまいに決まっていると言っていた。だが、胃や十二指腸をいためてからそれができなくなり、やむを得ず水で割るようになった。
それは致し方ないこととして、永井が嫌ったのはむしろ氷を入れることだった。その理由は、「呑みはじめと終りでは、まるで味がちがってウイスキーを呑んでいる気がしない」というものだった。氷は一切用いずに、冷やしておいたミネラルウォーターで割って飲むというやり方をしていた。
一方、生涯、オンザロックを好んだのは、『警視庁草紙』や『甲賀忍法帖』などで知られる山田風太郎。毎日の夕食時に、ウイスキーのボトル約3分の1をオンザロックで2時間ほどかけて飲んだ。その後、ひと眠り。夜中に目覚めて朝まで原稿を書くというのが日課だった。朝になると再び眠って、昼ころに起床。昼から夕方までは、本を読んだり人に会ったりしたという。
オンザロックが、風太郎の生活のリズムを作るための、不可欠の要素となっていた。
文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。著書に『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。現在「漱石と明治人のことば」を当サイトにて連載中。
※本記事は「まいにちサライ」2012年4月7日配信分を転載したものです。
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