悪しき風習?山口瞳が水割りを嫌った理由【ウイスキーよもやま話1】

文/矢島裕紀彦

『礼儀作法入門』で知られる作家の山口瞳は、酒の飲み方にも一家言を持っていた。『酒呑みの自己弁護』と題するエッセイの中でも、自身のこだわりのスタイルをさまざまに述べている。

そもそも山口瞳は、ウイスキーを飲むときけっして水では割らなかった。「いったい、ウイスキーを水で割るという悪しき風習はどうやって生じたのだろうか。本来、強い酒の強い味と香りを楽しむべきものを薄めてしまうという考えが私にはどうしても納得いかない」と主張していた。

店で「水割りですか?」などと尋ねられようものなら、「酒を水で割って飲むほど貧乏しちゃいねえや」と答えるのが常で、ストレートまたはオン・ザ・ロックスで飲んだ。この「オン・ザ・ロックス」という表現も、こだわりのひとつ。山口瞳は「オンザロック」でなく、あえて「オン・ザ・ロックス」と書いていた。「オンザロック」では氷が大きすぎるように思えるというのだった。

なお、割るのは同じでも、ウイスキーをソーダ水で割るハイボールは、伝統的な飲み方のひとつとして推奨していたし、本人も楽しんでいた。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。著書に『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。現在「漱石と明治人のことば」を当サイトにて連載中。

※本記事は「まいにちサライ」2012年3月31日配信分を転載したものです。

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