今年で生誕120年を迎える洋画家・東郷青児(1897-1978)は、幾何学的な構成と抒情性を統合した独自の画風を作り上げ、近代的な女性美にあふれた美人画の数々を生み出しました。
東郷青児生誕120年を迎えたこの秋、全国の貴重な作品を集めた20年ぶりの回顧展「生誕120年 東郷青児展」が、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で開かれています。(~2017年11月12日まで)
鹿児島に生まれた東郷は、5歳のとき一家で東京に転居します。大正18年、18歳で初の個展を開き、その「未来派風」な前衛的作品が注目を浴びました。翌年には初出品した二科展で、二科賞を受賞しています。
大正10年渡仏。7年間のフランス滞在中にピカソと交流しつつ美術館に通って歴史的な西洋絵画を学びました。その途上で、独自の画風を作り上げていきました。帰国した東郷は、関東大震災から復興した東京を彩るモダニズム文化に受け入れられ、シンプルでしゃれた装丁や挿絵を手がけ、高い評価をうけました。
昭和10年前後、東郷は藤田嗣治と百貨店の大装壁画に挑戦します。それにつれて、泰西名画調のモチーフをレパートリーに加え、近代的な女性美を生み出していきました。
太平洋戦争終戦後、東郷は仲間に呼びかけて二科展を再開、復興期の装飾絵画の第一線に立ちました。そして、美と抒情を統合した女性像で「東郷様式」と呼ばれるスタイルを確立していきました。
評論家・植村鷹千代は東郷様式を、誰にでもわかる大衆性、優美・華麗な感覚と詩情、油絵表現の職人的な完璧さと装飾性、と評しています。没後40年近い今も、東郷様式は色あせることなく人々を魅了し続けています。
開催中の「生誕120年 東郷青児展」は、前衛的と呼ばれた初期から、戦後に東郷様式と呼ばれた独特のスタイルを確立する1950年代までを中心とする作品61点と資料39点を展示し、東郷青児の画風の形成の足跡をひもときます。
本展の見どころを、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館の主任学芸員、中島啓子さんにうかがいました。
「美術界きってのモダンボーイとして知られた東郷青児。洋菓子の包装紙などに描かれた可憐な少女に心惹かれた人も多いでしょう。パリでの経験を活かして昭和初期に生み出した優美でモダンな美人画は、日本の近代女性のタイプを変えたともいわれます。
この秋に開催する生誕120年の記念回顧展では、情熱を内に秘めた端正な戦前の油彩画、藤田嗣治と旧・丸物百貨店に競作した大型の装飾画、清廉な小品などなど、よく知られた青児のイメージが揺らぐような作品を集め、大衆を魅了した抒情と美の秘密をひもときます。戦前の希少な油彩画を含む佳品約60点が各地から東京に集まるのは、じつに20年ぶりです」
モダンななかに哀愁ただよう“青児美人”に会いに、ぜひ会場に足をお運びください。
【開催要項】
生誕120年 東郷青児展
■会期:2017年9月16日(土)~11月12日(日)
■会場:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
■住所:東京都新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
■電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
http://www.sjnk-museum.org/
開館時間:10時から18時まで、10月4日(水)は20時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし9月18日、10月9日は開館)
※「中秋の名月」にあたる10月4日(水)は夜8時まで鑑賞時間が延長され、6時30分からはSOMPOフィルハーモニー管弦楽団メンバーによる15分ほどのミニコンサートも行われます。東京都心の夜景を一望できる新宿の高層ビル42階にある美術館で、美しい音楽と夜会服(ソワレ)をまとった青児美人たちと共に、秋の夜長をゆっくりとお楽しみください。
取材・文/池田充枝