■サッチモとの意外な類似

サッチモの「ジャズの父」という別格理由はさておき、彼がもっている大衆的人気と、マニア好み的イメージと重なるホリデイの「カリスマ性」は、相反する要素で、それゆえふたりは対照的な性格の歌い手とファンの間では見られているようです。少し前まで私もそう思っていました。しかしつい最近ですが、私はそうした印象が間違いではないかと考えるようになったのです。一見まったく相反するように見えるふたりですが、意外と似ているところもあるのではないかと思い始めたのですね。

私がそのことに気がついたのは、本シリーズ第33号「ナンバーワン&ミリオンセラー・ジャズ・ヴォーカル」を書いているときでした。それまでの印象として、ビリー・ホリデイは一部のコアなジャズ・ファンに支持されていたという思い込みがあったのです。ですから、私も愛聴していた彼女の「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」がミリオンセラーであることを知って、かなり驚いたのです。彼女って、意外とポピュラーだったのですね。

ジャズ・ファンの深層心理に「私だけが理解している」という思い入れがあって、とりわけカリスマといわれたビリー・ホリデイや、天才といわれたチャーリー・パーカーのファンにはその傾向があるようです。そのホリデイのレコードが100万枚以上売れたという事実を知って、あらためて彼女の歌唱を聴いてみると、「ごくふつう」に楽しめるのですね。私にとっては今さらながらこれは発見でした。そしてふと思い出したのです。そういえばパーカーだって……。

個人的な話ですが、私には「そのジャンルの最高のものを知ればすべてがわかる」という思い込みがありました。ですから、ジャズを聴き始めたころ、ジャズに詳しい友人から「パーカーが最高だよ」と教えられ、彼の即興演奏がいちばん冴えているダイアル(レーベル)やサヴォイのアルバムを集中して聴き、「なるほどこれは凄い」と体感したのでした。その体験は、たしかにジャズのキモともいわれる「アドリブ」の面白さを実感するいい機会となりました。しかしそこには落とし穴もあったのです。それは、パーカー晩年の、あまりアドリブをとらないヴァーヴ時代のアルバムを軽視する傾向です。

それが変わったのは私自身が歳をとり、昔は「ゆるい」と思っていたヴァーヴのストリングス入りの演奏や、「軽い」と感じていたラテン・バンドとの共演を聴くようになってからでした。いいのですよ、こういう演奏も。ジャズは即興だけが聴きどころではないと、今さらながら実感したのです。音楽の表情の豊かさ、味わいということでは、けっして即興バリバリの演奏に引けを取ってはいないのです。理由は簡単です。パーカーの音楽は「器が大きい」のです。

>>次ページ「ホリデイ秘伝の隠し味」

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