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「虎は死して皮を遺し、人は死して名を遺す」(雪花山人)【漱石と明治人のことば219】

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今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「虎は死して皮を遺し、人は死して名を遺す」
--雪花山人

明治の末から大正期にかけて子どもたちを夢中にさせた『立川文庫』というシリーズ本があった。縦12.5センチ、横9センチの小型本で、表紙は色とりどりの布クロース。300 ページ近い本文を埋めるのは、講談調で書かれた『一休禅師』『真田幸村』『猿飛佐助』『宮本武蔵』などであった。

発行元は立川文明堂。創業者の立川熊次郎が、書店は文明を啓発するという意から、自身の苗字と合わせて名づけたとも伝えられる。総計200 冊近くにのぼる立川文庫のうち、著書名として過半を占めるのは「雪花山人」。これは実は、集団の筆名である。大阪の講釈師二代目玉田玉秀斎を中心に、その内縁の妻である山田敬の息子たち、さらに知人の文学青年までが加わって講談の集団制作工房をつくり、書き講談を量産したのだという。

掲出のことばは、立川文庫の中でもとくに人気のあった『猿飛佐助』の書き出し。あとに、こうつづく。

「建武の昔は大楠公正成、降って真田幸村、元禄四十七義士の快挙
、明治聖代の乃木大将、各々其の目的は異りと雖も、志は一なり」

掲出の言い回し自体は、昔からいわれている俚諺のようなもので、たとえば広辞苑の「虎」の項にも、用例として「虎は死して皮を留め、人は死して名を残す」のことばが紹介されている。

こうした警句めいたものを散りばめながら噺を進めていくのは、もととなっている講談の常套手段だろうが、活字にした場合にも物語の展開に一種のリズムと深みを与える効果が生まれているように感じられる。

他にも、

「人学ばざれば智なし、玉磨かざれば光りなし」
「月に村雲の憂いあり、花には嵐の心配あり」
「天に口なし人を以て云わしむ」
「山高しと雖(いえど)も尊からず、木あるを以て尊しとなす」

など、読者の少年たちが胸に刻んで暗唱してみたくなるようなことばが、あちこちにある。

これも立川文庫の魅力のひとつだったのだろう。
文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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