あらゆるパターンの相続トラブルを目撃してきた相続問題の専門家・曽根惠子さんに、これまであった相続トラブルの実例と、その解決策をご紹介していただきます。親はもとより自分自身も“終活”を意識する年齢にさしかかっているサライ世代。後戻りできない骨肉の争いを避けるために、ぜひ読んでおいてください。

【相続事件簿04】老後破産への道!破産を回避、認知症対策にもなる民事信託がある。

松本省吾さん(54歳・仮名)は現在、仕事の関係で大阪府に住んでいます。同じ年の妻と、私立大学の4年生に在学中の息子がいます。松本さんの両親は父が86歳、母が84歳で東京都内に在住。40年前に購入した一戸建てで2人暮らしをしています。

松本さんには50歳の妹がいて、妹の家族は夫と高校生の娘2人。彼らは実家の近くの都内のマンションで4人暮らしをしています。

両親が住む家は、東京都内にあり、広い。しかし、松本さん兄妹は、幼い頃から住んでいる実家に愛着があるものの、そこに戻って住むという選択肢はありませんし、松本さんの妻は大阪生まれで、そもそも東京に住む気持ちはないため、大阪で家を購入しています。フルタイムで仕事をしている妹も駅に近い夫名義のマンション住まいが快適で、広い一軒家に親と同居するつもりはないようです。

幸い、両親は80歳をすぎても元気でしたので、それに甘んじて、仕事の忙しさもあり、気になりつつも、ほとんど実家にも帰らずノータッチできました。そんなある日、父親が家で転倒して入院。結果的に歩くことが困難になって車いすが必要で要介護となりました。

自宅は二階建ての一軒家ですが、バリアフリー対応しておらず、また母親も高齢で介護ができないので、家には戻らずそのまま介護施設に入所することにしました。しかも追い打ちをかけるように、母親は父親の入院中3か月間、自宅で一人暮らしをしていたときに、認知症の疑いが出るようになったそうです。

そんな高齢の母親には、自分で諸手続きができせん。近くにいる妹も多忙。長男の松本さんが有給休暇や土日を利用して頻繁に帰り、父親の入院手続きや介護施設探しなどを行いました。

その機会に、久しぶりに両親と会話をし、様子を確認してみると、思っていた以上に認知症気味だとわかり、愕然とします。入院や施設の費用が必要ですので、父親の預金も確認しましたが、思いのほか少ない。“両親がなくなったら、相続税がかかるんだろうな……”とぼんやり考えていた松本さんですが、このままでは大変だとにわかに心配になりました。

父親の財産は、自宅と預金と生命保険。自宅の土地が200坪あり、広いため、それだけで1億2000万円ほどの評価になることが判明し、相続税は1012万円と試算できます。母親が相続する場合は特例が使えて納税は不要ですが、亡くなる順番はわかりません。また、父親は1200万円の生命保険に入っていて、亡くなったらすぐに下ろせるので、相続税は払えるのですが、払ったら手元には残りません。

なにより松本さんが不安に思うことは、父親の預金が300万円しかないということです。お店を経営して羽振りのよかった父親でしたので、悠々自適かと想像していました。ところが、そんな額しか残っていないとは驚きでした。

母親も専業主婦で、父親より少し多い程度の預金かありません。年金は母親の生活費を出すのが精一杯で、父親の施設の費用は預金から切り崩すと、ほどなく預金は底をつき、松本さんや妹が援助しなければなりません。

松本さん夫婦にも、妹夫婦にも、住宅ローンや学費がかかる状況で、貯金どころか借金があるという状況です。とても不安でなんとかしたいという気持ちだといいます。

さて、こんな場合に相続のプロ・曽根さんが提案する、選択のひとつとは?

次のページで、曽根さんの解説とアドバイスを聞いてみましょう。

>>次ページ「老後破産を回避するための『民事信託』」

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