取材・文/池田充枝
奈良・西大寺の創建は天平神護元年(765)。光明皇太后の信任を得て淳仁天皇を擁立して権力を握った藤原仲麻呂との反乱鎮定を祈願して、聖武天皇と光明皇后の娘である称徳天皇が造営を始めました。
反乱鎮定後も政情は大いに乱れ、都は平城京から長岡京、平安京へと移っていきました。都が平安京に移されたあと、奈良の寺社は苦難の時代を迎え、創建直後にバックボーンを失った西大寺の状況は深刻でした。
鎌倉時代になって登場したのが、西大寺中興の祖、興正菩薩叡尊(こうしょうぼさつえいそん、1201-1290)です。若くして真言密教を学んだ叡尊は西大寺に入り、寺を伝統的な律宗の教えと密教を組み合わせた「密律双修の道場」とし、僧侶や市民の集う「光明真言会」を創始しました。同時に救済事業を進めるなど精力的に活動し、その教えは大いに広まりました。
叡尊はそのかたわら、愛染明王坐像や現在の西大寺の本尊釈迦如来立像、大黒天立像などの造立を発願したり「大茶盛」を始めるなど、西大寺独特の文化を創り上げました。大茶盛は、「一味和合」の精神で巨大な茶碗で回し飲みする儀式で、800年を経た現在も西大寺の重要行事として受け継がれています。
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そんな西大寺の創建1250年を記念した展覧会が、大阪の「あべのハルカス美術館」で開かれています(~2017年9月24日まで)
東大寺などとともに南都七大寺に数えられる名刹、総本山西大寺およびその一門の真言律宗の寺社に伝わる優れた仏教美術を紹介しながら、時代のうねりのなかで進むべき道を追求した興正菩薩叡尊らの足跡を辿ります。
本展の見どころを、あべのハルカス美術館副館長の米屋優さんにうかがいました。
「この展覧会は、西大寺が創建1250年を迎えたことを記念して全国3会場で開催されますが、大阪会場では、国宝6件、重要文化財36件を含む約80件の仏像、仏画、経典、文書、工芸品などが展示されます。
とくに、西大寺創建まもなく造立された「塔本四仏坐像」(重要文化財)が4軀そろって展示されるのは大阪会場だけです。また、西大寺中興の祖である叡尊の肖像彫刻で昨年新たに国宝に指定された「興正菩薩坐像」や西大寺の本尊である「釈迦如来立像」(重文)、秘仏「愛染明王坐像」(重文・8月29日~9月24日展示)など、めったに西大寺から外に出ることのない仏像が多数お出ましになっています。
鎌倉時代に叡尊が出てから、奈良周辺をはじめ全国各地の由緒がありながら当時衰退していた多くの寺院が、叡尊一門によって復興されました。この展覧会では一門の寺院や結びつきの深い寺院からも貴重な名宝が出品されます。
京都・浄瑠璃寺の秘仏「吉祥天立像」(重文)が7月29日から8月6日まで特別に公開されるほか、奈良・般若寺の「文殊菩薩騎獅像」(重文)、奈良・元興寺の「聖徳太子立像」(重文)、奈良・宝山寺の湛海作「五大明王像(厨子入り)」(重文)など美しい仏像に出会えます。
西大寺と一門の名宝が一堂に展覧されるのは、なんと四半世紀ぶりのことです。この貴重な機会をぜひお見逃しなくご覧ください」
国宝・重文の名宝がズラリと並び見応え十分です。西大寺とその一門の仏教美術をじっくりご鑑賞ください。
展覧会 | 創建1250年記念 奈良 西大寺展 叡尊と一門の名宝 |
会期 | 2017年7月29日(土)~9月24日(日)会期中展示替えあり |
会場 | あべのハルカス美術館 |
問い合わせ先 | 電話:06・4399・9050 |
Webサイト | http://saidaiji.exhn.jp |
開館時間 | 10時から20時まで、月・土・日・祝日は18時まで(入館は閉館30分前まで) |
休館日 | 7月31日(月)、8月7日(月)・21日(月)・28日(日) |
なお本展はこのあと山口県立美術館に巡回されます(10月20日~12月10日)
取材・文/池田充枝