文/鈴木隆祐

1930年代、アメリカにロバート・ジョンソンというミシシッピ州出身の夭折のブルース歌手がいた。ギター一本で弾き語りをし、全国を渡り歩いた旅芸人だが、『クロスロード』という意味深な持ち歌があり、急に凄腕となったものだから、「十字路で悪魔に魂を売り渡した結果」との噂も流れたのだった。

英語のクロスロード(crossroads)は十字路というだけでなく、“人生の岐路”という比喩的な表現でもある。そして十字路=四つ辻は、太古からの不思議スポットであった。古代ギリシアでは過去・現在・未来を象徴する女神ヘカテの守護する場所であり、神々の伝令役だったヘルメスのアイコンが目印に使われる神聖な場所であった。

沖縄でも「見晴らしのいい丁字路や四差路は百鬼が横行する」という古代中国思想の影響から、そこをアジマァと呼び、魔除けの石敢當がよく置かれている。

そして何より象徴的なのが、1回の青信号で多い時には約3000もの人が通行するといわれる東京・渋谷駅前の巨大なスクランブル交叉点。今や外国人観光客の観光名所のひとつにもなっているという。外国人には、それだけの人間が整然と道路を渡る様自体が、一種異様に見えるというのだ。

そんな渋谷のスクランブル交叉点での、外国人観光客たちの行動を観察していると、交叉点の真ん中で“自撮り”をする人が多い。仮に一人であっても、3000人ものエキストラの前で主役を張るといった朗らかな表情で己の姿をスマホで撮影するのだ。

最近は登山に出かけても外国人を見かけることが多いが、一人山頂に立っている彼らも、同じ明るい表情をしている。人と積極的に混じり、意見をぶつけ合う日常を送っている(と思われる)外国人たちは、日頃のストレスをそうやって癒しているのかとも思える。

ふと冷静になって、その中央で立ち止まり、しばらく道を往く人々を観察し、さらには自撮りなどしてみると、群衆の中の孤独というか、自分が“大河の一滴”であるかのような心持ちさえする。しかしそれは、あくまでも日本人的な受け止め方なのかもしれない。

そうなのだ。外国人目線に立つこともたまには必要。スクランブル交叉点を外国人観光客のように味わってみるのも、よい発想の鍛錬になる。これだけの人数がどう集まってきて四散するのか、それぞれの思惑はなんなのかなどと考えると、なんだかワクワクしてこないだろうか?

十字路や交叉点の前というのは文字通り、様々な感情が交錯する場である。だからこそ、五感を研ぎ澄ます訓練の場として最適なのだ。それは夕暮れ時に辻(交叉点)に立ち、聞こえてくる人々の言葉から物事の吉凶を占ったという、日本古来の「辻占(つじうら)」にも気脈を通じている。

文/鈴木隆祐
監修/前刀禎明

【参考図書】
『とらわれない発想法 あなたの中に眠っているアイデアが目を覚ます』
(前刀禎明・著、鈴木隆祐・監修、本体1600円+税、日本実業出版社)
http://www.njg.co.jp/book/9784534054609/

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