文/鈴木隆祐
イソップ童話の代表作『ウサギとカメ』を知らない人はいないはずだ。ウサギがカメの鈍足を笑い、カメがウサギに駆け競べを挑み、どちらが早く目的地に到着するか競うことになる。
その俊足をもってすればカメに負けるはずのないウサギだが、油断をして昼寝をするうち、ウサギはカメに追い越され、勝負に敗れてしまう。
本来楽勝なはずが、サボったばかりに負けたウサギの慢心から教訓を学ぶべきだ……と、一般的には捉えられているが、果たしてそんな単純な捉え方でよいのだろうか?
高度経済成長も今は昔。ゴールだけを一心不乱に見つめてガムシャラに走っていけば勝てた時代は終わりを告げた。今はどの先進国でも「自分の得意」をいかに見出だし、ブラッシュアップすることに躍起だ。それは国民各人にも当てはまることなのである。
その点、走ることに長けてもいないカメがウサギにかけっこで勝負を挑むこと自体、本来無謀そのものなのだ。人生経験をしっかり積んでいれば、そんな「売り言葉に買い言葉」は決してしないだろう。
『ウサギとカメ』の物語の冒頭でカメがすべきなのは、実はウィットに富んだ次のような受け答えだった。
「ボクは君のように足が長くないから、陸では早く歩けないさ。でも、水の中ならどうだろう?」
ウサギの挑発に対してそんなふうに返しておけば、自分の得意な土俵で有利に勝負できたろう。自らを活かし、際立たせる発想とは、こうした軽妙なズラしの中にこそ見出だせるものなのだ。
初対面の人と対話する際なども、いわゆるアイスブレイク(話のきっかけづくり)が重要となる。天候やスポーツ、最近観た映画などの当たり障りのない話をしつつ、相手とどんな共通項があるかと探りを入れるわけだが、そこでも自分に有利に話を展開するには、自分の得意な土俵に相手を連れ込むのが一番だ。
生活の中でいろいろ発想する上でも、やはりテーマによって、人それぞれに得意不得意がある。雑談一つとっても、なるべく自然に自分の土俵へと持ち込めば、有利なだけでなく、会話も俄然楽しくなるというものだ。
文/鈴木隆祐
監修/前刀禎明
【参考図書】
『とらわれない発想法 あなたの中に眠っているアイデアが目を覚ます』
(前刀禎明・著、鈴木隆祐・監修、本体1600円+税、日本実業出版社)
http://www.njg.co.jp/book/9784534054609/