監修/萩原さちこ 取材・文/平野鞠
城の基礎知識や、名将達の戦略について掘り下げていくこの連載。前回の記事「敵にあんなものをかける攻撃も!城の防衛装置「狭間」に隠された工夫とは」では、城の塀や壁に存在する攻撃用の穴、「狭間(さま)」についてご紹介しました。
第2回目は、城の装飾に欠かせない「破風(はふ)」を見ていきたいと思います。
■装飾つきの屋根「破風」は4種類に大別される
城の美しさをつくり出している要因の一つに、様々な形状の「破風」があげられます。破風とは屋根の端にある、装飾つきの屋根のことで4種類に分けられます。
まず、すべての天守の最上重と、望楼型天守と呼ばれる構造の天守下重(の入母屋造の大屋根端部)に設けられるのが「入母屋破風」。これは屋根の隅部を形成するもので、建築上必要不可欠です。
その他は装飾を目的としたもの。「千鳥破風(ちどりはふ)」は天守の象徴ともいえるもので、大きさや数に制限がなく、壁面を華やかに演出します。また、「切妻破風(きりづまはふ)」は、神社本殿を起源とした切妻屋根につくられるものです。
そして、最も装飾性が高いのが「唐破風(からはふ)」。寺社建築が発祥の格式高い破風で、屋根の上部を一部分だけ盛り上げるように丸く折り上げた「軒唐破風(のきからはふ)」と、出窓のように独立している「向唐破風(むかいからはふ)」の2つに分けられます。
また、破風には「懸魚(げぎょ)」という装飾がつけられます。小さな破風には「梅鉢懸魚(うめばちげぎょ)」、普通の大きさの破風には「蕪懸魚(かぶらげぎょ)」を見ることができるでしょう。
■美しいだけではない!破風内部の活用法
城は美観と実用を兼ね備えるのが理想です。破風も、壁面を美しく彩るだけではなく、防衛施設として有効活用されています。
破風の内部は、出窓のような三角形の小部屋になっていて、「破風の間」と呼ばれる防御スペースとして使用されました。彦根城の天守では、扉をつけて完全な隠し小部屋にしています。
また、姫路城では千鳥破風や唐破風の下に攻撃用の窓を開き、天井には鉄砲の煙が充満するのを防ぐための小窓を設けています。
* * *
今回は、城の装飾に欠かせない「破風(はふ)」について見てきました。同じように見える屋根も、注意して見ると様々な破風で彩られていることがわかるでしょう。
次回も城に関するトピックをお届けします。詳しくはぜひ『図説・戦う城の科学 古代山城から近世城郭まで軍事要塞たる城の構造と攻防のすべて』をご覧ください。
取材・文/平野鞠
監修/萩原さちこ
萩原さちこ(はぎわら・さちこ)
1976年、東京都生まれ。青山学院大学卒。小学2年生で城に魅せられる。 大学卒業後、出版社や制作会社などを経て現在はフリーの城郭ライター・編集者。 執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座、ガイドのほか、「城フェス」実行委員長もこなす。 おもな著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、 『お城へ行こう! 』(岩波ジュニア新書)、『今日から歩ける 超入門 山城へGO! 』(共著/学研パブリッシング)など。 公益財団法人日本城郭協会学術委員会学術委員。
【出典】
『図説・戦う城の科学 古代山城から近世城郭まで軍事要塞たる城の構造と攻防のすべて』
(萩原さちこ・著、本体1,100円+税、SBクリエイティブ)
http://www.sbcr.jp/products/4797380781.html
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