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文/佐竹敦

日本には、江戸時代以前に建てられた仏塔が、関西を中心に実に128基(五重塔22基、三重塔105基、十三重塔1基)も現存していて、たとえば京都や奈良の観光をしていれば、これらの仏塔を目にする機会は決して少なくないだろう。

とはいえ、実際に「姿を鮮明に」「名前や所在地を明確に」思い出すことができる仏塔が、一体どれだけあるだろうか?

「いや、そう言われてみると、一つとしてはっきり、しっかりと思い出すことができない」「そもそも仏塔は全部同じようなものにしか見えない」という方が大多数なのではないだろうか?

このように仏塔の印象が強く残っていない理由として考えられることは、寺院を訪ねた際に、様々な建物が建ち並ぶ寺院の境内の中で、仏塔を「強く意識して見る」ということがないために、あまり印象に残らない、ということではないだろうか。

しかしながら、世の中に同じ仏塔は二つと存在していない。一つ一つの塔にはそれぞれに特徴がある。また現存する五重塔22基だけを見てみても、そのすべてが国宝または重要文化財(国宝9基、重要文化財13基)に指定されている。世界遺産に指定されているものも7基ある。

このように文化的価値が非常に高い塔を、ただ何となく一目見て通り過ごすのはあまりにももったいない。ここで基本的な塔の見方について、簡単に解説をしてみたいと思う。

■仏塔は基本的に2種類に大別される

まず私たちが通常「塔」と呼んでいるものは、三重塔や五重塔のような「層塔」のことである。

層塔は平面が方形(四角形)で、層数は三・五・十三の奇数層とする三重塔、五重塔、十三重塔の三種類がある。そのうち十三重塔は、奈良県桜井市の談山神社に現存しているものが国内唯一であるが、これは層塔ではなく二層以上の軒を重ねた「檐塔」(えんとう)に属する。また過去には七重塔、九重塔も建てられたそうであるが、現存はしていない。

つまり現在国内で見られる仏塔は、基本的に「五重塔」と「三重塔」の2種類しかないのである。もちろんそれぞれの塔はすべて高さや大きさが違うし、さらに見てみると塔全体が赤く装飾されている塔もある。

だから、まず塔を観察するにあたっては、「五重塔であるのか、三重塔であるのか」「色は何色であるか」「高さや大きさはどうであるのか」を観察するだけでも、他の塔との違いに気が付くはずである。

■塔の美しさを決定づける「逓減率」

次に気をかけてほしいのが塔の美しさを決定付けるとされる逓減率(ていげんりつ)である。

一般的には聞きなれない「逓減」という言葉ではあるが、五重塔や三重塔を解説する上で頻繁に登場する極めて重要な用語である。

通常、塔の造形は、上層に上がるにつれ、軒の出や塔身の横幅が順に小さくなっていく。これを「逓減」といい、初層に対する最上層の幅の割合のことを「逓減率」というのである。

そして上層と下層の差が大きい塔は「逓減が大きい」といい、ほぼ同じ幅のまま立ち上がる塔は「逓減が小さい」という。

たとえば最上層が初層の半分ならば「逓減率は0.5」であり、塔はどっしりと安定感のある姿となる。また逓減率を0.7だとすると、塔はすらりと背が高く観えるのが特徴である。

とはいえ、逓減率が小さ過ぎて塔身が細長い印象を受ける塔は、今にも倒れるのではないかと不安で見た目にも著しく、安定を欠いたように観えることもままある。

このように、私たちが塔を見た際に感じる印象の何割かは、確実にこの「逓減率」によるものであるから、これを意識して塔を見るようになれば、自ずと塔の見方はかなり幅が広がるものと思われる。

たとえば有名な法隆寺の五重塔は「逓減率0.5」であり、室生寺の五重塔は「逓減率0.594」である。

法隆寺五重塔(国宝、世界遺産、逓減率0.5、日本三名塔)

「逓減率0.5」の法隆寺五重塔(国宝、世界遺産)撮影:佐竹敦

室生寺五重塔(国宝・逓減率0.594)

「逓減率0.594」の室生寺五重塔(国宝)撮影:佐竹敦

一方、福山市にある明王院の五重塔は「逓減率0.714」、山口市にある瑠璃光寺の五重塔は「逓減率0.68」である。

明王院五重塔(国宝、逓減率0.714)

「逓減率0.714」の明王院五重塔(国宝)撮影:佐竹敦

瑠璃光寺五重塔(国宝、逓減率0.68、日本三名塔)

「逓減率0.68」の瑠璃光寺五重塔(国宝)撮影:佐竹敦

そして「日本で最も美しい塔」とされる伏見・醍醐寺の五重塔は「逓減率0.617」だ。(ちなみに、この醍醐寺と、法隆寺、瑠璃光寺の塔をあわせて「日本三名塔」と称される)

醍醐寺五重塔(国宝、世界遺産、逓減率0.617、日本三名塔、日本最美の塔)

「逓減率0.617」の醍醐寺五重塔(国宝、世界遺産)撮影:佐竹敦

以上、基本的な塔の見方について簡単に解説をしてきたが、いかがだろうか。

細部まで細かく見れば、その複雑に組み立てられた緻密で精巧な木組みの妙や、各層に設置された窓や匂欄(高欄)と呼ばれる手摺りといった装飾などにも、それぞれの塔の魅力は感じられる。

建築様式などは専門的な分野で一般的にはなかなかわからないものであるが、それぞれの塔の特徴や他の塔との違いがわかるようになると、塔と対面した際の喜びや楽しみが何倍にもなることは請け合いである。

今度、寺院を訪ね仏塔を見る際には、ぜひ上記の点に留意して拝見されることをお勧めしたい。

文/佐竹敦
日本全国の即身仏・一之宮・五重塔・三重塔・滝百選・棚田百選・国分寺跡をすべて訪ね歩いた一人旅の達人。テレビチャンピオン滝通選手権出場。主な著書に「この滝がすごい!」「日本の滝めぐり」等。テレビ東京の「厳選!いい宿ナビ」のコラム執筆、@nifty温泉の記事執筆等、ライターとしても各メディアで活躍中。ホームページ「歴史と旅」http://www5f.biglobe.ne.jp/~syake-assi/

 

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