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文・写真/インディ藤田(サライ編集部)

「いつまでもあると思うな親と金」。子供の頃によくそんな言葉を聞かされたが、先日、父が他界した。

京都の実家に帰省して、葬儀を済ませ、父の部屋の片付けなどをしていたら、大昔、自分が中学・高校生時代によく使っていたレコードプレーヤーが出てきた。

“ステレオ”と読んでいたパイオニアのオーディオセットは、すっかり全部処分されたとばかり思っていた。レコードを聴くわけでもないのに、父はなぜ、このプレーヤーを処分せず取って置いたのだろうか。

もはやその謎は解けないが、よく見ると懐かしいカートリッジがまだ付いていた。「シュア」の「V15 TYPE Ⅳ」。埃を取り、静電気を除去する“ブラシ”(ダイナミックスタビライザー)も付いていて、当時、一世を風靡した名器だ。

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高校生にはなかなか手の届かない高価格商品で、小遣いを貯めて買ったのを覚えている。確か、京都のレコード店の名門「十字屋」で購入したはず。いろいろな思い出が蘇ってくる。

さらに父の部屋を探してみると、風変わりな灰皿が出てきた。これは往年の名指揮者、レナード・バーンスタインがウィーンフィルと録音したベートーヴェンの交響曲全集のおまけとして付いてきたモノだ。そんなこと、何十年も忘れていた。

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当時、たいそう評判となった全集で、どうしても入手して聴きたかったレコード。小遣いでは足りないので、親にねだって百貨店の高島屋から買ってもらったのだが、おまけの灰皿は高校生には無用の長物。愛煙家の父はそれを使わずに大事に取ってくれていたようだ。

そんなこともあり、東京に戻ってから、自宅で長年眠っていたLPレコードを取り出してみた。転居の際に某大手レコードショップが中古を扱うというので引き取ってもらおうとしたら、クラシックには値が付かないから処分すると言われ、返却してもらったものだ。

レコードを売るなら、やはりディスクユニオンなど中古専門ショップに限る。が、結局、面倒臭くなって、そのまま売らずに保管していたのだ。

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しかし、聴かなくなって四半世紀近く放置されていたから、カビでも生えてるのではなかろうか……。恐る恐る紙のジャケットから取り出してみると、何と美しいこと。傷も埃もなくピカピカだ。

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そうだった、高校生の頃、レコード盤をクリーニングスプレーとクリーナを入手して、聴く度に、慎重に掃除していたのだった。傷はもちろん、埃が付いているのも許せないという徹底ぶり。ジャケットもさらに専用の透明な袋に入れていた。

大学受験が迫っているのに何をやっていたんだか。

眠っていたLPレコードを次々と取り出してみた。伝説のフルトヴェングラーが指揮した鬼気迫るシューベルト。いつも柔和で優しい音楽がづくりが好きだったブルーノ・ワルターによるモーツァルト。いずれもレコード盤はとてもきれいに保管されていた。

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きちんと掃除をしていれば、直射日光の当たるところにでも置いておかない限り、そうそう曲がったりすることもないものなのだと、レコードのタフさに感心。いやあ、レコードってほんっとにいいもんですね。亡き父のおかげで、アナログの良さに目覚めてしまった私であった。

レコードプレーヤーは転居の際に処分してしまったが、この機会に新しい商品を購入しようかと考えている。

文・写真/インディ藤田(サライ編集部)

『サライ』3月号は「猫」と「レコード」の大特集号です。

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