昨今は「日本美術ブーム」と言っても過言ではない状況ですが、その世界に深く足を踏み入れたいと思ったときに、意外とぶつかってしまうのが「用語の壁」です。
一般的な展覧会には作品解説がありますが、技法など言葉の一つ一つまでは説明されていないこともしばしば。わからない言葉が積みあがって「日本美術は難しい」と思ってしまったら、それはとてももったいないことです。
いま東京の根津美術館では、実際の美術作品を目の前にしながら、古美術の技法や用語を学べるという画期的な展覧会「はじめての古美術鑑賞」が、開催されています。この機会に是非、技法や用語を覚えてみましょう。
以下に、そのいくつかをご紹介します。
【たらしこみ】
「滲みの効果を意識的に使用した技法。墨や絵の具が乾ききらないうちに、より多くの水を含んだ墨や絵の具を加える」(展示解説より、以下同)。
墨や絵の具のせめぎ合いが模様となり、絵にやわらかい印象を与えます。俵屋宗達、尾形光琳など、琳派の大御所が多用したこともあり、かなり頻出する言葉です。
【金雲(きんうん)】
「金箔を貼って雲や霞をかたどったもの。場面の区切りや省略のために用いるが装飾的な効果も高い」。
根津美術館学芸部長の松原茂さんが、狩野探幽『両帝図屏風』を例に、金雲に様々な技法が使われていることを教えてくださいました。
「金箔を貼ったり、砂子(金箔を細く切ったもの)が蒔かれています。その砂子も一種類だけではなく、色味の違う複数の種類を蒔きわけて、雲の前後関係やヴォリュームを表しています」。
展示会場で作品を目にすると、赤っぽい金と白っぽい金とで微妙な差が生まれていることがわかります。一口に金箔といっても種類がいくつもあることに驚きます。
【截金(きりかね)】
「金箔や銀箔を、細い線や三角・四角・菱形などに切って絵画や彫刻に貼り付ける技法。仏の着衣や背景の文様、光線などの表現に用いられる」。
「愛染曼荼羅」をご覧いただくと、緑色の背景が金の細い線で正方形に区切られ、その中に模様が表されていることがわかります。この金の部分が金箔を切って貼り付けたものなのです。技術力はさることながら、気の遠くなるような労力も必要とする作業です。
繊細な技法を、本などの図版で学ぶには限界があります。今回の展覧会は、会場で実際の作品と相対しながら、技法について理解を深められる絶好の機会。最高の実例とともに技法や用語を覚えられれば、日本美術鑑賞がもっともっと楽しくなるはずです。
【コレクション展 「はじめての古美術鑑賞 -絵画の技法と表現-」】
■会期/2016年7月23日(土)~9月4日(日)
■会場/根津美術館
■住所/東京都港区青山6-5-1
■電話番号/03・3400・2536
■料金/一般1100円 学生(高校生以上)800円 中学生以下無料 ※20名以上の団体、障害者手帳提示者と同伴者1名は200円引
■開館時間/10時~17時(入館は16時30分まで)
■休館日/毎週月曜日
■アクセス/地下鉄銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅下車、A5出口(階段)より徒歩約8分、B4出口(階段とエレベータ)より徒歩10分、B3出口(エレベータまたはエスカレータ)より徒歩約10分
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』