文部大臣になった徳川家斉の孫
A:さて、斉裕が亡くなったのは慶応3年で、上方では鳥羽伏見の戦いが展開されていた時期でした。後を継いだのは次男の蜂須賀茂韶(もちあき)。「茂」の字は、第14代将軍徳川家茂の偏諱になります。血統上では、蜂須賀茂韶と将軍家茂は従兄弟になります。
I:この徳川家斉の孫にあたる蜂須賀茂韶のことを調べてみたのですが、「将軍の孫」だけあってすごい人だということがわかりました。明治になってから、北海道に「蜂須賀農場」(現在の北海道雨竜町周辺)を設立したり、渋沢栄一と組んで、いくつも企業を立ち上げたり、さらに明治29年には松方正義内閣で文部大臣に就任しています。
A:蜂須賀茂韶で有名なエピソードといえば、明治天皇との「夜盗問答」が有名です。明治天皇に謁するために応接室で待機していた茂韶が、卓上にあった煙草を一本失敬した。それを偶然見てしまった明治天皇が「蜂須賀、先祖は争えんのう」と揶揄したというものです。
I:蜂須賀家の初代、蜂須賀小六正勝が夜盗出身だったという故事をあてつけたというエピソードですね。
A:家系としては蜂須賀小六の流れなわけですが、血統としては「将軍家斉の孫」。なんとも赴き深いエピソードですよね。蜂須賀家は、茂韶の後、正韶、正氏と続きます。現在の当主は、正氏の娘正子さん。継嗣はなく、2004年に蜂須賀家伝来の史料などを徳島市に寄贈し、「蜂須賀家の家じまい」と話題になりました。
I:蜂須賀小六は、来年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』でも主要キャストのひとりとして登場するはずですから、誰が演じるのかを含めて楽しみが増えましたね。
●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり
