歳をとるというのは厄介なものですよね。周りからは、年相応に物知りなどと思われたりして……。うっかり漢字の読み⽅なんか間違えたりしますと、とっても恥ずかしい思いをするなんてこともあるかもしれません。
脳の⽅は、若い時のようにパッパと記憶中枢からひっぱり出せなくなってきているかもしれませんが、「歳をとってきちゃって、なかなか思い出せなくて……」なんて⾔い訳をするようでは、サライ世代の沽券に関わる?
「脳トレ漢字」今回は、「焦らす」をご紹介します。

「焦らす」は何と読む?
「焦らす」の読み方をご存じでしょうか?
正解は……
「じらす」です。
もしかしたら、「焦る(あせる)」という言葉から類推して、「あせらす」と読んでしまった方もいらっしゃるかもしれません。確かに意味合いは近いのですが、残念ながらそれは誤りです。
『小学館デジタル大辞泉』では「相手に期待をもたせながらそのことをしないで、いらいらした気持ちにさせる。じれさせる」と説明されています。
例えば、「プレゼントをなかなか渡さずに焦らす」「返事を焦らす」「結論を焦らす」のように使います。
「焦らす」の由来
まずは「焦」という漢字の成り立ちを見てみましょう。
「焦」は、部首である「灬(れっか・れんが)」が火を表し、その上に「隹(ふるとり)」が乗っています。「隹」は鳥の形を象った象形文字です。つまり、「焦」は 「鳥を火で炙る、焼く」 様子を表しているとされています。
火で炙られれば、鳥は熱さで身をよじり、苦しむでしょう。そこから転じて、「火が燃えて黒くなる、こげる」という意味や、「いらだつ、あせる」といった精神的な意味が生まれました。
「焦らす」という言葉は、この「いらだつ、あせる」という意味合いから派生したと考えられます。相手の心を、まるで火でじりじりと炙るかのように、落ち着かない状態にさせる。そんなイメージが、「焦」の字に込められているのかもしれません。
「焦らす」ことの功罪
さて、「焦らす」という行為。皆さんは、どのような印象をお持ちでしょうか。
恋愛における「駆け引き」として、相手の気を引くために意図的に使われることもありますね。すぐに手に入らないからこそ、余計に魅力的に感じてしまう……人間の心理を巧みについたテクニックともいえるかもしれません。

また、ビジネスの世界でも、新商品の発表を遅らせたり、情報を小出しにしたりすることで、消費者の期待感を高めるマーケティング戦略が見られます。これも一種の「焦らし」といえるでしょう。
しかし、現代社会は、スピードと効率が重視され、何事も「待つ」ことが苦手になっている風潮があるかもしれません。だからこそ、相手を思いやり、適切なタイミングで情報を提供したり、期待に応えたりすることの大切さが、以前にも増して重要になっているのではないでしょうか。
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いかがでしたか? 今回の「焦らす」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか?
言葉の意味を深く理解することは、より豊かな人間関係を築く上でのヒントを与えてくれるのかもしれませんね。
参考資料/
『デジタル大辞泉』(小学館)
『日本大百科全書』(小学館)
『新漢語林』(大修館書店)
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
