望月の歌
A:道長が詠んだ「望月の歌」ですが、近衛さんは以前、一般に言われているのとは違うのではないかといったことをおっしゃっていましたよね。
近衛:僕は「世」と「夜」についてはそれほど気にしていなかったんですけど、そもそも、立場的に、いくら酔っぱらっていたとしても、さすがにそんな調子に乗った歌は詠まなかったんじゃないかと思っていました。道長という人は非常にねたまれる立場でもあったでしょうから、誰かしらその場にいた人からまた聞きした人が少しニュアンスを変えて伝えたんじゃないかと思ったんです。以前、こういうことに詳しい人と話をした時、道長はもっと歌がうまいはずだというんですね。あの「望月の歌」はそれほどいい歌じゃないから、本来は違った歌だったのを言い変えたり、ニュアンスを変えたりした結果ああなったんじゃないかと思ったりしています。
A:藤原実資の日記『小右記』には、この歌を全員で唱和したということが書かれています。(NHKオンデマンドで第44回のシーンを見ながら)
近衛:この場面、節をつけて唱和するかと思ったのですが。
A:「このよをば~~」「わがよとぞおもうもちづきの~」という感じですよね。難易度高いですから断念したのかもしれませんね。
道長と紫式部と男女の緊張感
A:道長と紫式部(まひろ/藤式部/演・吉高由里子)の関係はどのようにご覧になりましたか。第1回で、道長の兄の道兼(演・玉置玲央)が、まひろのお母さんちやは(演・国仲涼子)を刺してしまうという場面がありました。
近衛:あれはセンセーショナルでしたね。まさかそういう設定にするとは、と驚きましたけど。紫式部と道長の間に、後の関係性以外のもうひとつのバックグラウンドがドラマとして必要だったということでしょうね。ふたりの間にある程度、男女の緊張感があったことは間違いないと思います。でも単純に、道長が玉砕しているはずなんですよね(笑)。そりゃそうでしょう。才女を口説こうとして、道長は玉砕するわけですよ。あえなく返り討ちにあうんです。逆にそっちをコミカルに描いたら、それはそれでおもしろそうですね。大河ドラマじゃない枠で。誰かれなく口説きまくる道長とまったくなびかない紫式部。脱線しますけど、『深夜食堂』がすごくおもしろくて、最近、全話見直したんですね。ああいう感じで、公家が普通に愚痴をいいにきたらおもしろいなと思いました(笑)。
I:『光る君へ』の中で他に、お、これはと思ったようなことはありましたか。
近衛:散楽の直秀(演・毎熊克哉)のような人たちが隠密みたいなことをしていたかもしれないというのは、ちょっとおもしろかったです。そういう人たちが前半にいて、後半には双寿丸(演・伊藤健太郎)が登場し、最後は武士として戦にいくようなところも描かれていました。歴史に描かれない人たちが登場するのはおもしろいです。
【2028年の道長千年遠忌。次ページに続きます】