ライターI(以下I):一条天皇(演・塩野瑛久)の崩御が描かれました。幼いころは母である東三条院詮子(演・吉田羊)の影響下にありましたが、藤原道隆(演・井浦新)の娘定子(演・高畑充希)が入内してからは、定子を姉とも母とも、そしていつのころからか、かけがえのない存在として、愛し抜きました。
編集者A(以下A):定子のサロンでの生き生きとした一条天皇のいろいろな場面が思い出されます。そうした情景は清少納言(演・ファーストサマーウイカ)が著した『枕草子』のおかげで1000年以上経過した今日まで伝わっているわけです。もちろん多少は盛られた部分もあるのかもしれないですが、王朝文化華やかなころの様子を今日まで伝えてくれています。その物語が令和のいま、ドラマとして再現されたのは画期的なことだったと思います。
I:『光る君へ』のおかげで『枕草子』の解像度が大幅にアップしました。『枕草子』を題材にいろいろな議論が発展していけばいいなと思ったりします。さて、劇中では、病に臥している一条天皇のもとから「三種の神器」を運び出す「皇位の移譲」場面も描かれました。
A:三種の神器が側にあってこその皇位という象徴的な場面になりました。後年、源平合戦の頃になると、「神器なき即位」など、「ありえない」事態も引き起こされることになりますから、ああいうさりげない描写に「深い意味」を感じてしまいます。
I:一条天皇の膝に月光が差しこんでいるのが、一瞬、勾玉か鏡が光っているように見えました。傍らには三種の神器を収められた箱が置かれていて、皇位というものが人知を超えたものであることを感じさせました。さて、その一条天皇が行成(演・渡辺大知)に辞世の句を託しました。
露の身の風の宿りに君を置きて 塵を出でぬることぞ悲しき
藤原行成は、この歌を11年前に先だった皇后定子へ宛てたものだと日記に記します。
A:『光る君へ』第28回で皇后定子の崩御が描かれた際に、皇后定子の遺した「煙とも雲ともならぬ身なれども 草葉の露をそれとながめよ」(煙となり雲となって空にただようこの身でなくても、草葉におく露を見て、それが私と思い偲んでください)という歌が思い起されます。
I:「草葉の露」と自らの身を表現した皇后定子。それに対して、「露の身の」と詠む一条天皇。皇后定子が亡くなってからもずっとつながっていたんだと思って、切ない思いに駆られます。一条天皇を一途に思い続けてきた中宮彰子もまた切ないです。
【一条天皇を演じた塩野瑛久さんの思い。次ページに続きます】