道長が焦っている理由
I:さて、斉信、実資のふたりから出仕するように促された藤原公任です。
A:公任と実資は従兄弟の関係になります。公任の祖父実頼からの流れは俗に「小野宮流」といいます。道長の祖父師輔からの「九条流」のライバルということになります。小野宮流は実頼の代から娘を入内させていますが、皇子誕生をみることがありませんでした。それだけのことで、実権を「九条流」に奪われた形になります。
I:公任の姉の遵子(演・中村静香)は円融天皇(演・坂東巳之助)に入内しますが、皇子を生むことができず、同じく円融天皇に入内していた藤原兼家の娘詮子(演・吉田羊)が皇子懐仁親王(後の一条天皇)を生みます。
A:実頼の代でも村上天皇に入内した実頼の娘述子は出産時に亡くなってしまうという悲劇に見舞われています。「四納言」と称されて、道長の最側近のように振舞っている彼らですが、水面下ではじりじりと争っていたということですね。
I:第31回では、道長が娘の彰子が皇子を生む土壌づくりとして、まひろに『枕草子』を凌駕する物語執筆を促すということになっています。
A:なんとしても一条天皇と中宮彰子の間に皇子をもうけてほしいということです。皇子が生まれないばかりに、公任や斉信の家は権勢を得られなかったのですから。
I:道長も必死だということで、まひろを動員したわけですね。いったいどういう展開になるのでしょうか。興味深いですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり