文/印南敦史

『ボケない散歩』(石田良恵 著、アスコム)の著者が専門とする「運動生理学」は聞きなれない分野かもしれないが、平たくいえば、行っていることは“健康増進”の研究なのだそうだ。
特筆すべきは、著者自身が83歳であるという事実。まさに研究の成果を活用できているのだろうが、運動生理学と個人的な実感を融合させたメソッドとして勧めているのが、本書のタイトルにもなっている「ボケない散歩」なのである。
たしかに散歩であれば簡単にでき、きつくもないだろう。しかもストレスをためる必要もないのだから、純粋に楽しく行えるはずだ。
「歩くことは健康の源」
私はこう思っていますが、散歩をしているみなさんも、きっとそう感じているのでしょうね。実際にこんなデータもあるのです。
国土交通省の試算ですが、1日1500歩多く歩くだけで、年間約3万5000円もの医療費を節約できるそうです。1500歩は距離で1kmほど、時間にすると約15分。歩くことは体にいいだけでなく、お財布にもやさしい、まさに“最良の薬”ですね。(本書19ページより)
恥ずかしながら、歩くことの経済効果など考えたこともなかった。だが医療負担を減らせるというのは、いわれてみれば当然の話だ。いまさら強調するまでもないが、歩くことには多くの健康効果があるのだから。
まず、体重の管理がしやすくなる。歩くと余分な脂肪が消費されるため、それほど気をつけなくても体重が増えにくくなるのだ。著者自身も、体重が増えやすくなる更年期の時期でさえ、特別なダイエットをせずに体型を維持できたのだという。
また、歩けば血流もよくなる。事実、著者は冷えやむくみに悩まされたことがないそうだ。さらには汗をかく習慣ができるため新陳代謝も高まり、体温調節がうまくいくようにもなる。そのため、熱中症にもかかりにくくなるだろう。
そして散歩は、心にも効く。外に出て風を感じ、季節の変化を五感で感じることができれば、気持ちは前向きになるわけだ。
私の場合は、桜が咲く頃には、少し足を延ばして、神田川沿いの桜並木を眺めながら歩く。秋には、公園の落ち葉をサクサクと踏みしめながら、ゆっくり一周する。そんな小さな楽しみが、日々の活力になるのです。(本書21ページより)
一方、同じように散歩をしている人たちの様子を見て「残念だなあ」と感じることも著者にはあるのだという。
それは、「歩き方」。背中を丸めたり、下を向いて歩いている人が少なくないというのである。猫背の私も知らず知らずのうちにそうなっているのだろうが、歩き方が悪ければ、精神的にも身体的にも十分な効果は得られないかもしれない。
もちろん散歩の醍醐味は、楽しく歩くことにある。それが第一であることは間違いないが、どうせなら正しく歩きたいものだ。正しい歩き方を意識することができれば、身体の変化をよりはっきりと感じられるようになり、散歩がますます楽しくなるのだから。
「正しい歩き方」のポイントは、以下の4点に集約されるようだ。
1:地面をしっかり蹴って歩く
2:大股で歩いたり、早歩きをしたり
3:散歩の途中で「かかとの上げ下げ」
4:ついで・情報収集・決まり事
(本書88〜104ページより抜粋)
詳細については本書をご確認いただきたいが、これらを意識して実践することが重要だというのだ。
古代ギリシャの医師であるヒポクラテスも、「歩くことは人間にとって最良の薬」ということばを残している。およそ2400年も前から、歩くことの価値は認められていたということだ。
そうしたエピソードからも、薬に頼るよりも前にまずは自分の足を使ってみるべきだということが理解できるのではないだろうか。
しかも前述のとおり、散歩は決して難しくないのだ。歩きやすい靴を選ぶことは大切だが、それ以外に特別な道具は必要ない。ちょっとした時間があればすぐに始めることができ、続けることで、体も心も変わってくるのだ。
最初はほんの数分であったとしても、続けていれば人生は少しずつ変わっていくに違いない。
私にとって、散歩はこれからもずっと人生の一部であり続けると思っています。歩かない人生もあるかもしれません。でも、私は迷わず「散歩をする人生」を選びたい。できれば、あなたにも散歩を楽しむ人生を選んでほしいと思っています。(本書88〜104ページより抜粋)
たしかに、日常生活の一部に散歩が加われば、人生の色彩が変わっていくのかもしれない。

『ボケない散歩』
1650円
石田良恵 著
アスコム
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。











