ライターI(以下I):『光る君へ』第31回では、藤原斉信(演・金田哲)が藤原公任(演・町田啓太)を追い越して従二位に昇進したという人事が話題になりました。傷心の公任は出仕することをやめたということで、斉信が訪ねて、出仕するよう促します。
編集者A(以下A):余計なお世話という気がしないでもないですが、その場に藤原実資(演・秋山竜次)もやってきて、斉信と同じように、「内裏に公任殿がおられぬと、調子が出ぬ」と進言します。こうやってドラマの素材として描かれると、いろいろなことが想起させられる深い深い場面になりました……。
I:ということで、改めて、藤原公任、斉信と道長(演・柄本佑)の関係を振り返ってみましょう。斉信の父為光は太政大臣を務めた実力者。段田安則さん演じた藤原兼家の弟になります。為光の娘で斉信の妹の忯子(演・井上咲楽)が花山天皇(演・本郷奏多)に寵愛されていました。
A:忯子は花山天皇の子を身ごもっていましたが、亡くなってしまうという悲劇に見舞われるんですよね。愛する忯子を失って傷ついた花山天皇を唆して出家させたのが、藤原兼家(演・段田安則)で、実行したのが道兼(演・玉置玲央)になります。
I:ああ、その場面すでに懐かしいですね。歴史にifを持ち出すのはタブーなんですが、忯子が花山天皇の皇子を生んでいたら、兼家一族への権力移譲はなく、「為光―斉信」の系譜が権力を掌握していたかもしれないのですよね。
A:はい。斉信の父為光は兼家の弟ですから、道長と斉信は従兄弟ということになります。第31回では中宮彰子(演・見上愛)のもとで中宮大夫を務めていることが説明されましたが、以前は中宮定子(演・高畑充希)のもとでも中宮大夫を務めていました。
I:あ、そうそう。その縁で、清少納言(演・ファーストサマーウイカ)との交流が生まれ、『枕草子』にも斉信がちょくちょく登場するわけですものね。劇中の第17回では「深い仲になったからといって自分の女みたいにいわないで」という台詞もありましたし、第30回では斉信が「ききょう(清少納言)を手放さねばよかった」と軽口をたたく場面もありました。あれ? なんか、今思ったのですが、もしかしたら、斉信は道長と通じていて、中宮定子の動向を逐一報告していたのでは? ってことはないですかね?
A:公任を追い越して従二位に昇進した背景には、「道長への情報伝達」の論功行賞があったという考えですか? アカデミズムの視点では「×」でしょうが、エンターテイメントの視点では「〇」なのかもしれないですね。実際に清少納言は道長派のスパイだと疑われたこともあるようですから、意外と斉信内通説もあったりするかもしれないですね。
【道長が焦っている理由。次ページに続きます】