はじめに-まつとはどのような人物だったのか

2026年NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』にも登場しているまつ(のちの芳春院、演:菅井友香)は、加賀百万石の礎を築いた前田利家(演:大東俊介)の正室として知られる女性です。戦国の動乱期から江戸初期にかけて生き、11人の子女を育て、豊臣政権の中枢と徳川政権成立のはざまで前田家を支えました。

夫・利家の死後は出家して芳春院と号し、京都・大徳寺に塔頭を建立。さらに徳川家のもとへ人質として赴き、15年にわたり江戸で暮らします。武家の妻として、そして大名家の母として、彼女が果たした役割はきわめて大きなものでした。

本記事では、史料に基づきながら、まつの生涯とその歴史的意義を丁寧にたどります。

『豊臣兄弟!』では、夫・前田利家のライバルである藤吉郎(演:池松壮亮)の妻・寧々(演:浜辺美波)にライバル心を燃やす人物として描かれます。

まつ
まつ(芳春院)

まつが生きた時代

まつが生まれた天文16年(1547)は、まさに戦国時代の真っ只中でした。尾張・美濃・近江をめぐる争いが激化し、織田信長が勢力を伸ばし始める頃です。

まつの生涯と主な出来事

まつは天文16年(1547)に生まれ、元和3年(1617)に没しました。その生涯を、出来事とともに紐解いていきましょう。

12歳で前田利家に嫁ぐ

まつは天文16年(1547)7月9日、尾張(現在の愛知県西部)に生まれました。12歳で前田利家に嫁ぎ、以後生涯を通じて利家を支えます。

11人の子女をもうけ、その中には前田利長(加賀藩2代藩主)など、のちに加賀藩を支える人物が含まれています。

前田利家

豊臣政権下での前田家の立場

豊臣氏と前田氏とは織田部将時代の同輩であり、秀吉の妻・寧々と利家の妻・まつとは幼なじみでした。しかも三女・まあは秀吉の妾に、四女・豪と六女・菊は秀吉の養女という親族同様の関係にあったのです。

こうした結びつきは、前田家が豊臣政権下で重きをなした背景の一つでもあります。

さらに利家は秀吉の信頼が厚く、九州征伐や小田原征伐、文禄の役では重任を担いました。文禄元年(1592)の朝鮮出兵では名護屋に駐留し、徳川家康とともに秀吉の渡海を諫止したとも伝えられています。

秀頼誕生後は傅役(もりやく)として後見を務め、五大老の一人に列しました。豊臣政権の中枢にあった前田家の背後には、まつという存在があったのです。

利家の死と出家

慶長4年(1599)、利家が亡くなり、まつは出家して「芳春院」と号しました。慶長13年(1608)、京都・大徳寺内に塔頭「芳春院」を建立します。前田家の菩提寺として現在も続く寺院で、二重楼閣建築の「呑湖閣」などが知られています。

徳川家への人質として江戸へ

関ヶ原の戦い(1600)を目前に、前田家は徳川家康と微妙な関係に置かれます。そのとき、長男・前田利長は家康に屈し、母・まつを徳川家への人質として差し出しました。これにより、前田家は存続の道を選びます。

結果として、まつは慶長5年(1600)から約15年間、江戸で暮らしました。加賀百万石という巨大外様大名の母が江戸にいることは、前田家にとって政治的担保であり続けたのです。

その後、元和3年(1617)7月16日、まつは71歳で亡くなりました。

現在の金沢城

まとめ

まつは、戦国武将の妻であり、大名家の母であり、政治的均衡の象徴でもありました。

豊臣家との強い姻戚関係、利家の死後の精神的支柱としての役割、徳川家への人質という重大な政治判断…。これらを通して、前田家は関ヶ原後も120万石を超える大藩として存続します。

戦国の女性は表舞台に立つことは少なくとも、その決断と存在は歴史を動かしていたといえます。まつは、その代表的な一人といえるでしょう。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

文/菅原喜子(京都メディアライン)
肖像画/ぐう(京都メディアライン)
HP:http://kyotomedialine.com FB

引用・参考図書/
『日本大百科全書』(小学館)
『世界大百科事典』(平凡社)
『日本人名大辞典』(講談社)
『国史大辞典』(吉川弘文館)

 

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