和歌の勉強会で和泉式部と出会う

艶っぽいあかね(後の和泉式部/演・泉里香)。
(C)NHK

I:公任にまひろ(演・吉高由里子)の存在を教えたのが、公任の妻敏子(演・柳生みゆ)。まひろを講師に迎えて催されている和歌の会の主宰者です。

A:公任の妻は村上天皇の皇子、昭平親王の娘になります。昭平親王は、冷泉天皇の弟、円融天皇(演・坂東巳之助)の兄にあたり、いったん臣籍降下したにもかかわらず皇籍復帰した方です。さて、この頃は上級貴族の邸宅で催される「サロン」が全盛の時代だったのでしょうか。和歌の講師にまひろとは「お目が高い!」という設定ですね。

I:『源氏物語』には作中に795首もの和歌がちりばめられています。しかも登場人物の技量を設定したのか 、技量が劣る和歌も挿入されるなど、芸が細かいことでも知られています。和歌の講師としてうってつけの人材です。

A:「人はいさ心も知らずふるさとのは 花ぞ昔の香ににほひける」という紀貫之の歌を解説し、この和歌が唐の詩人劉希夷(りゅうきい)の「年年歳歳 花相似たり 歳歳年年 人同じからず」を踏まえていることに触れるなど、まひろも真剣でした。

I:ここで新たなキャラクターが登場します。あかね(演・泉里香)という女性です。後の和泉式部ということです。彼女もまた和歌の名手として知られています。

A:演じている泉里香さんは、年初にNHKで放映されていた『正直不動産2』※で山下智久さん演じる主人公の恋人役で謎の東北弁を駆使していた方ですね。このあかねという女性は大江雅致の娘になります。
(※正直不動産1からのシリーズの連投キャラのひとり)

I:大江氏といえば菅原氏同様に学問に秀でた家ですよね。あかね=和泉式部は「和泉式部日記」が今日まで伝わるなど、紫式部、清少納言と並ぶ「平安朝のスター」で奔放な恋で知られています。劇中では、「声聞けばあつさぞまさる蝉の羽の 薄き衣はみに着たれども」(蝉の鳴き声を聞くと、暑くてたまらない。蝉はあんな薄い衣を着ているのに)の歌が紹介されました。

A:「今日もまた朝寝されましたの?」「親王様とお話しておりましたら、つい」などというやりとりが交わされ、「恋に奔放な女性」の存在が強調されました。同時にあかねが『枕草子』を読んでいたことに触れられ、貴族社会の中で『枕草子』が話題を集めていたことが描かれました。

I:当時の人々が「新しい読み物を渇望」している様子を知ることができて感慨深いです。後のことになりますが、『更級日記』の著者「菅原孝標の娘」が『源氏物語』をむさぼるように読んだというエピソードも思い出されます。話題になっている書物の写本をいち早く入手して読みたいという強い思い。情報が溢れる現代だからこそ、こうした場面をみるといろいろと考えさせられますね。

まひろのもとに道長が

まひろの「カササギ語り」が燃やされてしまった。 (C)NHK

I:まひろの娘の賢子(演・福元愛悠)がまひろが執筆していた「カササギ語り」を燃やして失火を招きます。幸い大事には至りませんでいたが、センセーショナルな場面になりました。

A:「母が相手をしないからといって火をつけるとはどういうことなの?」「恐ろしいことなのですよ」「思い通りにならないからといって火をつけるなどとんでもないことですよ」と鬼の形相、きつい口調で賢子を責め立てます。

I:まひろの口調の強さに驚きました。為時(演・岸谷五朗)、まひろ、賢子の家族の風景は、一見本筋とは別の話題のようでいて、ずどんと胸に迫ってきました。

A:この箇所は別記事でじっくり話しましょう(https://serai.jp/hobby/1195817)。

I:さて、この流れで衝撃的だったのは、掃除をする乙丸(演・矢部太郎)の視線の先に、狩衣を身にまとって高貴な人間であることを隠した道長と百舌彦(演・本多力)の姿が現れたことです。どんな用向きなのかは察しがつきますが、なぜこんなにドキドキしてしまうのでしょうか。ここで「つづく」とは……なんという演出。一週間待ち遠しくてしょうがないじゃないですか!

A:いや、次週はパリ五輪の放送の関係で一週お休みですから、二週待つことになります。

I:え―、それは衝撃的です。あんな終わり方をして二週も待たせます?

A:まあ、耐え忍びましょう(笑)。ところで、前出の会食の場面で藤原斉信が「ききょう(清少納言)を手放さねばよかった」とさりげなく挿入してきたり、為時が道長嫡男頼通(演・大野遥斗)の学問指南を務める場面も登場するなど、脚本に一切の無駄がありません。作者が全身全霊で取り組んでいるのがストレートに伝わってきます。

I:感極まるとはまさにこのことですね。

為時(演・岸谷五朗)から学問指南を受ける道長嫡男頼通(演・大野遥斗)。 (C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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