ライターI(以下I):『光る君へ』第30回では、まひろ(演・吉高由里子)の娘賢子(演・福元愛悠)の教育方針をめぐって、まひろと父為時(演・岸谷五朗)が対立する様子が描かれました。
編集者A(以下A):為時は賢子と遊んでいたいのに、まひろは読み書きを教えてやってほしいと考える。あれこれ考えずに育てるか、親の思い通りになるように育てるのか悩ましい場面でした。
I:そうした中で、絶妙に挿入されてきたのが「人の親の心は闇にあらねども 子を思ふ道にまどひぬるかな」の和歌。まひろの曾祖父にあたる藤原兼輔の詠んだ有名な歌です。現代風にいえば「子育ては迷うことばかり」という親の思いを歌ったものです。
A:兼輔といえば、中納言まで昇進した公卿。この家から公卿が輩出するのは、平清盛の時代に中納言になった藤原邦綱まで待たねばなりません。
I:邦綱の娘輔子は平重衡の妻となり、壇ノ浦の戦いの際に入水したものの源氏軍に引き上げられるという数奇な運命をたどるんですよね。為時、惟規の子孫にそのような運命が待ち受けているとは……。
A:さて、為時とまひろの「じいじなどと仰せにならないでください。おじじ様と呼ぶようにしつけております」「学問が女を幸せにするとは限らぬゆえ」「父上が授けてくださった学問が私を不幸にしたことはありません」というやり取りが交わされました。
I:まひろと為時の会話に途中から惟規(演・高杉真宙)が加わって、面白さがいや増しました。賢子に、己の生き方を自分で選べるようになってほしいというまひろの考えに対して、惟規は「それも姉上の押しつけだけどね」「賢子は姉上みたいに難しいことをいう女にならない方がいいよ」と意見します。
A:一連の短いやり取りの中で、惟規の「立身」についてもぬかりなく触れられていました。為時が「内記の仕事はどうだ」と問いかけます。これで惟規は中務省の内記という職に就いていることが説明されました。中務省は律令八省のひとつで『新訂 官職要解』(講談社学術文庫)によると「主上の御側のことや詔勅の宣下を行なう」役所です。内記は大内記と小内記があり、大内記については「詔勅、宣命をつくり、位記を書く職であるから儒者で文章の上手なものを選任した」(『新訂 官職要解』)とあります。
I:惟規は堅実な役所勤め人生を送っていたのですね。これも為時の学問指南のおかげということなのでしょう。
A:本編でも触れましたが、ぼやを起こした賢子をきつく叱責するまひろの口調が胸に響いてきて、大河ファンの記憶に刻まれる場面になったのかなと感じています。そして、この場面とセットで聞いてほしいのが岸谷五朗さんのミニインタビューです。
【為時役の岸谷五朗さんのインタビュー。次ページに続きます】