数多の精緻な部品が組み合わさり時を刻む──その機構は変わらねど“令和の技術と精度”が息づく、現代日本の機械式の銘品を紹介する。
グランドセイコー/SLGW003
精緻に組み上げられた機構から日本の自然と美意識を感じる一本
リュウズを巻くと、止まっていた秒針が命を吹き込まれたように動き始める。手巻きの醍醐味はそんな瞬間にある。機械式ならではの楽しみだ。
グランドセイコーのエボリューション9 コレクションの最新作は、自動巻きではなく、古典的な手巻きを採用した。だがそれはけっして懐古趣味ではない。最新鋭の技術を注いだ次世代の手巻きだ。
機械式時計の精度を司るひとつに、調速機の振動数がある。これが高いほど歩度(進み具合)の精度と安定性は向上する。だが反面、振動数が高くなるほどエネルギーを消費し、持続時間と二律背反する。この問題を解決し、手巻きでは通常5〜6振動なのに対し、毎秒10振動と80時間の持続時間を両立したのが本機である。高い精度とともに、一度巻き上げれば、週末をまたいでも動き続ける。
巻き上げが待ち遠しくなる
加えて手巻きをさらに楽しむ工夫も凝らされている。リュウズを巻くと裏蓋のガラス越しに、ゼンマイの逆回転を防止するコハゼの動作を見ることができる。その形状は、「グランドセイコースタジオ 雫石」でも姿が見られる鳥のセキレイを象り、まるでついばんでいるかのように見える。
精緻さと確実性が伝わる指先の感触と音に加え、愛らしい動作を目でも楽しめる。巻き上げることが手間ではなく、待ち遠しくなるような感性に響く演出だ。
文字盤は、岩手県内にある広大な白樺林のその樹皮の美しさを型打模様で表現し、ケースの素材には独自のブリリアントハードチタンを採用。軽量かつ心地よい装着感は終日つけていても疲れない。
いわばこれは、機械式の原点である手巻きの現代的な解釈といえよう。過不足のない日常の実用性に、手巻きという趣味性を楽しむ。より身近に感じ、愛着も増すだろう。それは長い時をともに過ごす時計との理想的な関係である。
※この記事は『サライ』本誌2024年6月号より転載しました。